<酒井俊作記者の旬なハナシ!>

 10年以上前だ。野球記者駆けだしの頃、ある評論家が言っていた。「記者席では同じところから試合を見ることだ。同じ場所でないと『変化』に気づきにくい」。目に焼きついた光景は無意識のうちに脳裏に刻まれるのだろう。見過ごしていることも多いと戒めつつ、ふと気づくこともある。

 2日、高知・安芸で阪神秋季キャンプの初日を取材した。目の前で野手が特打をしている。自分なりのビューポイントで、目についたことがあった。中谷、大山、江越が打撃ケージ裏でティー打撃を行い、3人が異なる種類のティーを打っていた。<1>スタンドティー打撃<2>ノーステップで低いトスを打ち込む<3>遠く離れたネットに向かってトスを打つ。個々の練習は真新しくない。だが、一斉に並んで3種類を行うのって昨秋はやってなかったよな…。

 片岡篤史ヘッド兼打撃コーチは深くうなずく。「去年は、そこまで行っていない。振る力がついたということ。いろいろバリエーションをつけてやれるからね」。昨秋はひたすら「振る力」をつけるのが主眼だった。金本体制の2年間は継続して地力をつけてきた。見落としがちな「3種ティー」に成長の跡があった。新たに練習メニューに組み込まれて、意図も明確だ。

 <1>スタンドティー打撃

 片岡 (右打者は)セカンドライナーを打つイメージでやらせている。バットが内側から出てくるから。

 <2>ノーステップ低め打ち

 片岡 変化球で崩されたときでも、しっかり下半身を使って打てるようにね。

 <3>遠方ネットに打ち込み

 片岡 低いライナーを打つのを意識させる。とにかく強く振ることやな。

 右打ちスラッガーの3人はその後、フリー打撃へ。トータルで約100分間、休憩せずに打ち続けた。練習量を厳しく課すだけでなく、効率的に質も求める。「3種ティー」は料理に用いる調味料のようなもの。インサイドアウトのスイングを意識させつつ、実戦に即した内容を加え、強振の原点も見失わない。まだまだ味付けする段階なのだ。

 この秋、チーム最多20本塁打の中谷は軸で回って軽々と左翼に放り込む。新人ながら強烈な存在感を示した大山は非凡なパワーを発揮する。いまや、安芸で当たり前の景色になっている。片岡コーチは事もなげに言う。「量的には、こんなものかな」。何げなく映る練習に進歩があった。金本阪神は3年目の頂点へ、着実に前に進んでいる。(敬称略)