生え抜き中心の強いチームを作ってきた王者の秘密に迫るべく「阪神目線」から、セ・リーグを連覇した広島の日南キャンプと日本一に輝いたソフトバンクの宮崎キャンプに潜入してきました。第2回は広島の投手編です。昨季の優勝に導いた黒田博樹氏が引退し、今年は「黒田の穴」が不安視されましたが、薮田が15勝、岡田が12勝を挙げ、連覇に貢献しました。若い投手が続々と台頭した背景には、進取の精神に富むチームカラーがありました。

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 久しぶりに宮崎・日南の夜はご当地名物の「地鶏の炭火焼き」に舌鼓を打ち、さわやか風味の芋焼酎「飫肥杉(おびすぎ)」でノドを潤す。ほろ酔いしつつ、デスクの指令が脳裏から離れない。「なぜカープが強いのか。阪神との違いを投打で検証せよ」。なかなか難題だろう。今季、先発、救援ともに防御率は阪神の方が良く、層の厚さで阪神が広島を上回るからだ…。

 頭を抱えながら、2日目は広島キャンプのブルペンに潜入した。「カープらしさ」に迫るはずが、意外や意外、阪神でも見た光景があった。目の前で大瀬良大地が130球の熱投だ。だが、もっと目を引いたのは隣の若手投手たちだった。

 大瀬良も視界に入っていたのだろう。投げ終わったあと「アレ、(同郷の)下柳さんにも、やってみればと言われたんです。畝さんに話して春のキャンプでやれればと思っています」と興味を隠さない。奥では、今季、先発でプロ初勝利など5勝した中村祐太と5年目の辻空が交互に投げていた。20球投げた後、隣の屋内練習場で休憩のキャッチボールを挟むと、再びブルペンで20球ほど投球。それを3度、4度と繰り返す。

 懐かしい。阪神で05年に15勝を挙げるなど、黄金期を築いた下柳剛が行っていた「インターバルピッチ」を広島が秋季キャンプメニューに採り入れていた。数年前から取り組むという。畝龍実投手コーチは「実戦を想定したもので、イニングを重ねていくなかでね。(投球の)入り方とかも勉強になる」と言う。畝はコーチに就く前、21年間、スコアラー一筋だった異色な球歴だ。当時、下柳やヤクルト館山昌平が、この練習を行うのを見ていたという。「ずっといい練習だと思っていたんだよね」。下柳の場合、ブルペン投球の合間にダッシュを挟み、顔を引きつらせながら激走していた。ライバルのいいところを盗む、柔軟な思考がある。一流投手が個人で取り組む練習を広島はチームのメニューとして採用した。

 今季、先発で15勝を挙げた薮田和樹も飛躍につなげた1人だ。昨秋キャンプで15球を4セット、60球投げた。「去年、初めてやったのですが自分もその方がいい。ダメな時にそのまま投げてもいいけど『次の15球で』と思って投げるほうが試合のなかでの修正能力も高まる」。試合で一気に60球を投げることはない。休憩を挟みながら、球数を重ねていく。あえて投球しない「間隔」を作り、より実戦に近い練習に近づける。

 16年限りで黒田博樹が引退し、開幕前、先発は「黒田の穴」が懸念された。埋めたのは薮田や12勝の岡田明丈だった。薮田はブレークの一因に「投げ込み」を挙げる。「意識して球数を増やして、納得がいくまで投げたのは去年の秋がプロに入って初めて」。肩や肘に不安を抱えてきたが、故障を恐れず負荷をかけた。

 「なるべく同じところに続けて投げろ。続けられたら、今度は(中に)入らないように意識しろ」

 黒田から聞いたブルペンでの注意点だ。投げ込んでテークバックの小さい投げ方を身につけ、四球で崩れる悪癖が消えた。野手の11カ所打撃、そして、この日のブルペン。前途有望な若手が育つ土壌があった。広島が重視するのは「実戦力」だ。そこにトコトン、フォーカスして猛練習する。(敬称略)