記録は途切れても、白星は手放さない。巨人菅野智之投手(28)が、“二刀流”の活躍で今季5勝目を挙げた。3回にDeNA筒香に2ランを浴び、連続無失点は29回で止まったが、5回に自身のプロ初本塁打で試合を決めた。巨人の投手が勝利投手となり決勝本塁打を記録したのは、04年8月17日の工藤公康以来。エースの意地が、チームに勝利をもたらした。

 一直線に打球を目で追った。同点の5回。先頭の菅野は、2ストライクからDeNA石田の内角低め122キロスライダーを振り抜くと、一塁へ必死に走った。「来た球に反応しただけ。外野の頭は越えるかなと思ったけど、まさか入るとは…」。高校生以来、通算320打席目でのプロ1号の決勝弾に一瞬、頭が真っ白になった。「あまり覚えていないけど、一塁ベースを回ったら歓声が聞こえて…。また打ちたいなと思えるくらい、いいものだった」。初々しくジャビット人形をスタンドへ投げ入れた。

 やられた分、やり返した。3回には筒香に2ランを浴び、連続無失点が29回でとぎれた。自己最多タイに1回届かなかった。1点リードの5回には梶谷にソロを被弾。制球に苦しみ、6回107球3失点で降板。「両方防げた失点だった。今日の調子でよく3点で収まった。今日は野手のみなさんに感謝が尽きないです」。なんとかしたい。その一心でバットを振った。

 入念な準備と飽くなき執念が、一振りにつながった。ミズノ社製のバットは、職人へ木材の削りだしから要望を出す。2年目から「軽くて長くて飛ぶものがいい」と85センチ、880グラムにこだわる。同社担当者も「投手でここまでバットにこだわる人は聞いたことがない」と驚いた。

 7日の投手練習でマシン打撃に励んだ。1ケース目が終わり、マシンを止めるかと思われたが、すぐに2ケース目を準備した。内海に「まだ打つのか?」と驚かれても「こないだ打てなかったので」と返した。直前4日のDeNA戦で石田の前に3打数無安打。2週間後に実らせた。

 もちろん借りを返せたとは思っていない。お立ち台でも「ピッチングが悪かった。目指すところはこんなところではない」と自身への不満を重ねた。「打つ方はおまけ。次はしっかり9回まで投げます」。次こそは投球で役目を果たす。【桑原幹久】