阪神藤浪晋太郎投手(24)が、ついに勝った。「日本生命セ・パ交流戦」楽天戦(楽天生命パーク宮城)に先発。昨年5月4日ヤクルト戦(神宮)以来、勝ち星から見放されていたが、6回1/3無失点の好投で、実に407日ぶりの勝利投手となった。雨の中、粘りの投球を見せ、復活の1勝をつかみ取った。

 仲間とのハイタッチに入ってようやく、藤浪は表情を緩めた。407日ぶりの白星。「もうちょっと粘れたらなと…。うれしい気持ちと悔しい気持ちと、複雑です」と苦笑いした。

 気温12度。雨と風に身震いする仙台でも最速154キロ。3回1死満塁で3番島内を三ゴロ併殺打に仕留めると、以降は安定感が増した。7回途中を3四球にまとめ、被安打4の9奪三振で無失点。やっと心のもやもやに別れを告げられた。

 「心残りがあるんです」そうつぶやいたのは2軍暮らしが続いていた昨夏のこと。1年前の6月、父方の祖父・功さんが84歳で亡くなっていた。

 「後悔しかないんです。もっとおいしいモノを食べさせてあげたかったとか、無理やりでもゴルフに誘っておけば良かったって…」

 小さいころは岸和田の実家を訪ねれば、近所の駅まで「列車見学」に連れて行ってくれた。大阪桐蔭時代もプロ入り後も、暇があれば投球を見に来てくれた。いつも味方だった功さんは、テレビで阪神戦を観戦しながら息を引き取ったという。

 「最後に見てもらった僕の登板は、2軍に降格する試合だった。それが申し訳なくて…。ずっと楽しみにしてくれていたのに」

 強い後悔は心と体を突き動かした。

 制球難に苦しんだ昨季。精神面の不安を度々指摘され、2軍戦では危険球退場も経験した。

 「技術的にも、もうどうすればいいのか分からなくなって。野球が好きなのに、野球から離れたくなった時期はありました。でも、お酒や趣味に逃げても変わらない。野球の借りは野球でしか返せないので」-。

 1年以上、懸命にフォームを固めてきた。突如制球を乱す姿とは、もうおさらばだ。

 「いろんな方に勝ちつけてもらった。次は自分の力で恩を返せるようにしたい」

 苦悩との決別から、再起の道のりは始まる。【佐井陽介】