最後まで笑顔だった。ロッテ大隣憲司投手(33)が昨季まで所属した古巣、ソフトバンク戦に先発した。上林に対してまず投じたのは137キロの外角ボール球。続く2球目、137キロの低め速球を右前に運ばれた。「自分の中で真剣勝負ができた。2球で終わっちゃいましたけど。すっきりするヒットを打たれて、楽しんで投げられました」。前日宣言した通りの、ストレート真っ向勝負を終えた。

打者1人限りの“引退登板”として、井口監督が用意した花道だ。「まだビジターで来るのが慣れない」と言うほど通い詰めた、かつての本拠地。「久しぶりに見渡すこの感じ。懐かしい」。長年応援してくれた福岡のファンに雄姿を見せたかった。1安打1失点(自責0)だったが、投げられたことにホッとした。

場内ビジョンには「大隣憲司投手 12年間お疲れさまでした。感動をありがとうございました!」の文字。相手チームなのに登場曲を流し、名前もコールしてくれた。「球場全体が応援してくれている感じがした。投げる前に感動してしまった」と感謝を口にした。井口、工藤両監督から花束を受け取った時、涙腺が決壊しそうになった。「自分の性格的に涙はないなと思って」。こらえた。

今年は元同僚の巨人杉内や、生年月日が同じソフトバンク本多ら親交の深い戦友の引退が相次いだ。「一緒の時期に引退するのを、すごく不思議な気持ちでニュースを見ていた。これで本当に最後なんだなあ」。14年には国指定の難病・黄色靱帯(じんたい)骨化症の手術から復活し、日本一に貢献した。酸いも甘いも、ここで知った。

同年胴上げされたあのマウンドで両軍選手に囲まれ、試合後7度、宙を舞った。「優勝の時とは気持ちがまた、全然違うんですけど。皆さんに支えられてここまで来て、本当に、うれしい限りです」。すがすがしさを浮かべて、左腕はプロ野球選手としての自分に別れを告げた。【鎌田良美】