若虎に、同じ思いはさせたくない。現役時代はタテジマひと筋18年。先発ローテーションの一角として、晩年は救援で14、15年に最優秀中継ぎ投手になるなど、虎を背負った福原忍投手コーチ(41)。ただ「1球に泣いた」苦い過去が忘れられない。「戻りたくても、打たれてからでは戻れないんでね。悔いなく投げるにはいいことじゃないですか」。1球の重みを知っている男が、新チームになってから訓示した。

「打者の左右、球種、コース、場面、カウントなど、ブルペンで投げるときから1球ずつ意思表示していこうと話しましたね。自分の意思を表示することで、その1球に対する重みを感じてほしいので」

何度も「投げる前に戻りたい」と感じた現役時代。それでも戻れない現実…。だからこそ、新たな取り組みを始めた。ブルペンで投手陣は1球を投じる度に口を開く。「とくに中継ぎは、1球のミスが勝負を分けたりする。そこの意識は持ってほしい。ミスは絶対にあるので、どれだけミスを減らせるか。意識付け? 例えば外角ギリギリにストライクを投げると宣言すれば、そのボールを投げるのに責任を持つので」。

若い力にも期待を寄せる。矢野監督から望月、才木、浜地がキャンプMVPに選出された。「若虎三銃士」が投手陣を鼓舞する存在となる。「速いボール、力のあるボールを投げる投手が多いですね。あとは、ストライクを投げる技術が大事。みんな意識を高く持ってやってくれているので。こっちから指示しなくてもできている」。課題は底上げ。若い力でグイっとチームを押し上げる。

力ある直球を生かすために、言い続けてきたことがある。「軸になる変化球を1つ、2つ作っていこうと。緩急があること、真っすぐと同じ腕の振りで投げることで、ストレートは生きてくるから」。今キャンプでも光るものが見えた。「例えば、飯田のチェンジアップ。ちょっとつかんできたなと。浜地のカーブ練習も良い感じに見えます。この期間だけでは、さすがに難しいけど、兆しになればいい。もちろん、他の選手も試してやっている。本人たちも、いろいろ理解して投げるようになっているので。意識を高くやってくれた」。

計算できる戦力に、実力未知数の投手が加わるのも楽しみだ。「馬場も福永も、強い真っすぐを投げるので楽しみ。ただ(今季)ファームだった選手は(調子に)波がある。そこを減らしていけるように。1軍(レベルの)投手は波が少ないから。悪いときでも、平均点以上のものが投げられる。彼らにはそれが必要。競争ですけど、本当に楽しみですよ」。壁をぶち破るために必要なものとは-。「質のいい真っすぐを投げることが一番大事。変化球もいいものがあれば。あとは、どれだけ自分の意図したボールが投げられるか。ストライク、ボールの投げわけを順番にやっていくこと」。期待株の選手たちが、福原コーチの助言で伸びていく。【真柴健】

◆福原忍(ふくはら・しのぶ)1976年(昭51)12月28日生まれ、広島県出身。広陵-東洋大をへて98年ドラフト3位で阪神入団。1年目は救援のみでチーム最多の10勝。その後先発に転じ、10年から再び救援に転向。14、15年に最優秀中継ぎ投手。通算595試合に登板し83勝104敗29セーブ、118ホールド、防御率3・49。現役時代は180センチ、96キロ。右投げ右打ち。