ニッカンコムのページビューで今年を振り返る「PVでPB ’18球界プレーバック」の第5回は「巨人」。球団史上ワーストタイとなる4年連続V逸ながら、ベスト10に複数のニュースがランクインと注目度の高さは変わらない。今季限りで退任した高橋由伸前監督(43)の「内」を振り返る。

高橋監督は感情が見えないと、よく言われた。監督1年目の16年に渡辺恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆が「君らの前では感情を出さないがコントロールする知性がある」と発言したのも、世間の評判を聞いてのことだろう。だが周囲に時間軸をさかのぼり聞くと、冷静と情熱の間に埋もれている“高橋由伸”は人間味にあふれていた。

サッカー元日本代表DFで桐蔭学園高の同級生である森岡隆三氏(43)は10代の瞳の印象が刻まれている。「とにかく目が美しく、澄んでいた。映画『風の谷のナウシカ』の主人公ナウシカのような。彼と接すると、みんなが穏やかに心優しくなる。僕もプロとしていろんな選手の目を見てきたが、本当にいい目をしていた」。ただ落ち着いていたわけではない。「サッカー部が他校の生徒に絡まれた時、翌日、サッカー部や柔道部などみんなで抗議に行った。その中に由伸もいたと思う」。薄れゆく青春の記憶の片隅に“怒れる由伸”がいる。

現役時代は2軍戦でも背中と言葉で雄弁に語った。前打者の二岡の本塁打にベンチが沸いている中で初球に1発攻勢を続けた。「すいません、見ていませんでした」と声を掛けた若手に「オレの初球から目を離すな」と返したという。クールさよりも、格好良すぎるコメントには熱さが同居する。

監督として喜怒哀楽は出さずとも、目前の現実は受け止めるシンの強さがあった。1年目のシーズン終盤の福井遠征。首位広島とのゲーム差が10以上と広がる苦境下にあった。移動日に首脳陣で会食した高級店の個室にある掛け軸が、コイが濁流を上っていく絵だった。広島の破竹の勢いを連想させた。周りは気を利かせて絵を外そうとしたが「大丈夫ですよ。現実だから」と制した。

今年10月3日に3年の指揮歴をもって辞任すると表明した。最後が“現実”となってから、伸びやかさが感じられた。ミーティングでは涙を流すこともあった。CSでの上原の5回投入など采配は攻撃的だった。劇場型の一面が解放されたかのように、かつて長嶋監督が名付けた「ウルフ」の野性味が、垣間見えた。

冷静な基盤は今後も変わらないだろう。だが時折、のぞかせる感情が希少の場面だからこそ、魅了された人も多い。【広重竜太郎】