阪神ドラフト1位の近本光司外野手(24=大阪ガス)が沖縄・宜野座キャンプで日刊スポーツのインタビューに応じ、自慢の走力で勝ち取る「得点」へのこだわりを熱く語った。鳥肌が立つほど印象深いと語る、13年WBC2次ラウンド台湾戦(東京ドーム)の9回2死からスチール成功した鳥谷に教えを請うつもり。武器の「足」で得点を稼ぎ、虎浮上の一翼を担う。【取材・構成=真柴健】

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思い起こすと、身震いがする。インタビューを受ける近本が、一瞬止まった。「今でも鳥肌が立ってきたんですけど…」。脳裏に焼き付くシーンがある。

「13年のWBCですね。(2次ラウンドの)台湾戦で鳥谷さんが9回2死一塁からスタートを切られた。絶体絶命の場面で盗塁を決めて、点が入りましたよね。あの時は震えました」

アウトになれば試合終了。日の丸を背負った戦いに終止符が打たれる。100%の成功が求められる場面だった。

「あの場面は、スタートを切る勇気があるだけでは無理だと思います。コンディショニングだったり、絶対に行けるという自信だったり、本当に全てが整ってないとスタートが切れない。『アウトになったらどうしよう』という考えがあれば成功できてないと思う」

間一髪のタイミングで滑り込み、塁審が大きく両手を開く。その瞬間、日本中が揺れた。「イチかバチかでは走れない。100%の確信がどこかにあったはずです」。当時、近本は18歳だった。あれから6年がたち、ドラフト1位で阪神に入団した。画面の中にいた鳥谷が目の前にいる。「ああいう場面で、最高レベルの舞台で、なおかつ成功された。当時の話を聞いてみたいと思いますね」。鳥谷しか味わったことのない感覚を教わるつもりだ。

今季の目標は新人王と盗塁王と掲げているが、近本のこだわりは「得点力」だ。「得点圏に自分がいることを意識しています。シングルヒットを打って一塁にいるのと、そこから盗塁して二塁にいるのでは、投手に対しても野手に対してもプレッシャーがかかるので。そうなれば力みだったり、疲れだったり、後に響いてくる。できるだけ得点圏に行くことを考えています」。見せ場である盗塁も1点を取るための手段。相手バッテリーとの駆け引きを制し、本塁を目指す。

50メートル5・8秒の俊足だが、ただ速いだけじゃない。ベースランニングにも工夫がある。「1歩でも早く次のベースに到着できるように、体の倒し方を意識しています。いかに早くベースを踏むかが大事なので」。それはキャンプ中の「足跡」から伝わってきた。近本の走路は、他の選手より1~2メートルほど内側を走り、膨らみが少なく、ほぼ直線で走る独自スタイルだ。

さらに、こだわりのベースタッチが「速さの秘密」を解く鍵だった。「自分は、基本的にベースを右足で踏むんです。できるだけ内に内に、という意識なんです。ベースを踏む感覚から変えていかないと速くならないかなと思ったので」。左足で踏むよりも、右足で踏めば、より内側を走れる。「得点につながるように走るのが自分の役割。あと1カ月でシーズンも始まるので、いいスタートを切りたい」。

オープン戦でもアピールに成功して、定位置の座をつかめば、憧れの赤星憲広氏が01年に打ち立てた球団新人最多得点(70得点)も視野に入る。

「どうしても打点とか得点圏打率とか、点に絡むところに注目が集まる。ただ、チームにどれだけ貢献できるかが大事だと思うので、得点っていうのも意識しながらやっていきたい。四球で塁に出た時や、併殺崩れで塁に残った時でも得点につながれば大きい。あとはチームのみんなを信じて全力で走るだけです」

鳥谷から極意を聞き、自らも「神走塁」の域に近づく。ドラフト1位の足がチームにもたらすもの。近本が、シーズン開幕に向けて走りだす。

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とてもスマート。昨秋のドラフト指名後から取材をさせてもらっているが、近本の印象は全く変わらない。質問への受け答えもはっきりしていて、はきはきと話す。下を向かず、聞き手の目をしっかりと見て話す。「左と右に道があるとすれば、同じゴールでも景色が変わってくる。アプローチを変えることで違う発見もできる」。報道陣にわかりやすく伝えるための例え表現も豊富だ。

そんな近本の表情が崩れる瞬間があった。昨年に結婚。新婚生活が気になり、キャンプ中の連絡頻度を聞いた時だ。「毎日はしないですね(笑い)。1クールに1回くらい。電話で5分ほどです」。遠くに離れていても、ボタンを押せばすぐにつながれるこの時代。ホッとする妻との癒やしの時間も、スタイリッシュだった。【阪神担当=真柴健】