ソフトバンクのドラフト1位、甲斐野央投手(22=東洋大)が、新人では08年ソフトバンク久米以来、11年ぶりの開幕戦勝利を挙げた。同点の10回から登板して2回1安打無失点、5三振を奪う力投で、サヨナラでの開幕戦3連勝を呼び込んだ。リーグV奪回、3年連続日本一へ向けて、フレッシュな力でスタート「奪Sh!」を決めた。

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剛腕ルーキーの31球が劇的勝利をたぐり寄せた。同点の10回。打者は前打席で同点満塁弾を打っていた西武山川。開幕戦のしびれるような場面で、プロデビューの舞台がやってきた。「オープン戦でいい結果を残せていなかった。チャンスをものにしたい気持ちだった。試合前から、マウンドに上がるというつもりでいた」。

奮い立った甲斐野はフォークボール2球で追い込むと、キャッチャー甲斐のサインに首を振って3球目もフォークを投げ込んだ。外角でワンバウンドする1球に、獅子の主砲のバットは空を切った。続く森は155キロ直球で、外崎はフォークで、いずれも空振り三振。強打の「山賊打線」の中軸を3者連続三振の衝撃デビュー。自慢の直球も最速156キロをマークした。

11回はオープン戦でもなかった回またぎでマウンドに上がり、内野安打1本を許したが2三振を加えた。新人では球団の先輩、08年久米以来の開幕戦白星。「勝ち星より結果が残せたのがうれしかった」と笑った。

甲斐野は「見る」男だ。ブルペンの片隅で、息を潜める姿がよく目撃される。先輩の投球、同期の練習はもちろん、年下の選手が投げる姿からも何かをヒントにする。視力も裸眼で1・5以上といい。登板前でもバックネット裏まで足を運び、他の投手に目を凝らすことも少なくない。大学時代は憧れた千賀ら一流投手の映像もチェックした。

プロ入り後、悩んだのが登板準備の仕方だった。「大学の時は『そのイニングで行くぞ』と言われ、そこに合わせて作っていた。プロではどの回で行くかわからない。気持ちの持って行き方も違う」。迷いの中、オープン戦終盤は打ち込まれ、防御率は8点台まで跳ね上がった。試合中のブルペンでは、森や嘉弥真ら先輩の姿を見つめた。「見て学ぶ」姿勢で自分のものにし、厳しい場面でのデビューにも動じなかった。

開幕戦3連勝となった工藤監督は「しんどかったと思うがよく投げてくれた。逃げないで向かっていった。力を存分に出した。勝ち星がついてよかった」と孝行息子をたたえた。リーグV奪回と日本一3連覇を目指す戦いは鮮やかなスタート「奪Sh!」から始まった。【山本大地】

 

▽甲斐野の話 僕自身が勝ち投手になると思っていなかった。うれしい気持ちでいっぱいです。三振を取りに行くより、目の前の打者を全力で抑えに行く気持ちで投げました。オープン戦でもいい数字を残せず、それでも(1軍に)残してもらい、期待に応えようとマウンドに行った。ヤフオクドームでソフトバンクファンとこういう結果を残せて良かった。

 

◆甲斐野央(かいの・ひろし)1996年(平8)11月16日生まれ、兵庫県出身。東洋大姫路では主に三塁手。東洋大に進んで本格的に投手に転向。18年ドラフト1位でソフトバンク入団。187センチ、86キロ。右投げ左打ち。今季推定年俸1500万円。