愛弟子が贈る、記念すべき1勝だ。楽天オコエ瑠偉外野手(21)が3回に逆転の1号3ランを放って平石監督に初勝利をプレゼントした。通算7本目で初となる逆方向への1発で進化を示すとともに、2軍時代からひときわ厳しい指導を受けるなど、誰よりも目をかけてくれていた指揮官に恩返し。4年目で初の開幕スタメンからレギュラー定着へ、期待に応え続ける。

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オコエの思考はクリアだった。1点を追う3回無死二、三塁。「最低でも犠飛」のセオリー通り、ストライクゾーンを上げた。オフからフラフープにヒントを得た新打法に取り組むなど、本塁打を含め最も安打になりやすいとされる時速158キロ以上、角度が30度前後「バレルゾーン」への意識は、かねてチームで突出。難しいミッションにおあつらえ向きの外寄り高め140キロという初球を逃さず「角度がついていた。最低限の結果を出したいと思って、最高の結果を出せた」とうなずいた。

平石監督もベンチで拳を振り上げていた。「(2軍監督だった)一昨年かな、あいつに費やした時間は一番長かった」。試合後に何時間も打撃投手役を務めたこともある。本人の記憶とも符合する。「2年目くらいですかね、試合前に『ガチギレ』されました。『ガチギレ』されたのは、自分くらいだと思う」。誰もがうらやむ高い能力を秘める一方、すぐにメンタルで沈み込んでしまう姿が口惜しかった。「『打てない時に一喜一憂するな』と言われたのが一番効いた。10代の時は『何でオレだけ』と思ったこともあったけど、今は期待されていたんだと分かる」と感謝を口にする。

「野球選手として、あらゆる部分で変わってきた。今までにない、成長した姿を見せてくれている」と目を細める平石監督は「彼独特のスケール感は絶対に消してほしくない。くそ真面目になるだけでは、あいつの良さは消えてしまうかもしれない」。本質を見抜いているからこその期待を口にした。まだ開幕2戦目。ドラフト1位の辰己をはじめ、ライバルはひしめく。凡退した残り3打席の反省は忘れない。「(平石監督は)絶対に人を見捨てない。結果を出せなければ、また期待を裏切ることになる」。深い恩義が生む危機感こそ、覚醒の原動力になる。【亀山泰宏】

◆楽天の外野事情 開幕から4番を打つ左翼島内、昨季新人王の中堅田中は当確。残る右翼を争うのはオコエと辰己が中心。巨人から金銭トレードで移籍加入した橋本も控える。