甲子園の夜空を、阪神木浪が思い切り殴った。ライトポール際への着弾を見届けると、右拳をグッと突き上げる。堪えていた感情が爆発した。

「チャンスで回ってきた打席だったので、がむしゃらに思い切ってスイングしていきました」

6点を追う7回2死一、三塁で、打席が巡ってきた。内角にきた129キロスライダーを強振。プロ第1号は球界を代表する投手・菅野からの3ランだ。寒空の甲子園で、新顔が唯一の見せ場を作った。「初めてのホームランだったので、素直にうれしかった。(菅野から)打てたのは誇りに思う」。表情には出さないが、内心は必死だったに違いない。

18日に“懲罰交代”を受けたばかりだった。初回にワンバウンドのフォークを空振り三振。だが、振り逃げを試みず、一塁へ走ろうとしなかった。矢野監督は「やることやらん選手とか、諦めるような選手を使いたくない」と鬼采配でベンチへ下げた。ワンプレーを全力で取り組めなかったことに反省は尽きなかった。

「自分が悪かったので。使ってくれた監督に感謝したい。結果が残せてよかったです」

遠く離れていても、家族はいつも味方だ。18日の試合後に携帯電話を見ると地元・青森からLINEが届いていた。「何か失敗した後にはチャンスが来るもの。菅野はコントロールが良いから、フルスイングしたら(本塁打が)あるかもよ!」。父・弘二さん(51)からだった。背中を押すメッセージが見事に的中した。その言葉を信じて振ったからこそ、打球は伸びた。心から支えてくれる家族へ恩返しを-。記念のボールは両親にプレゼントだ。

指揮官も「菅野から打ったのは自信になると思う」と、この日の1発を認めた。9回にもライトの頭上を越す適時二塁打を放ち、全4打点をマーク。懸命に取り組めば、ミスは取り返せる。その気迫が、木浪にはある。【真柴健】