力は憧れから生まれる。巨人の球団代表取締役社長兼編成本部長に就任した今村司社長(59)に迫る。東京大学文学部卒業後に日本テレビに入社。プロ野球中継などスポーツ畑でキャリアを積み、その後、編成局では敏腕プロデューサーとしてヒット番組を連発した。テレビ局出身者が老舗球団のかじ取りを任せられるのは初めて。民意を重んじる新社長の「紳士たれ」とは。【取材=前田祐輔、為田聡史】

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シナリオには必然的にドラマが潜んでいる。

85年に日本テレビに入社した。ドラマ制作を希望したが、スポーツを扱う部門に配属された。「最初に言われたときは、ものすごいショックを受けた。ドラマをやりたくて入ったし。ドラマは、自分が生み出すという意味で、脚本を書く、音楽、技術指導…と具体的にイメージがわくけど、スポーツはなかったから」。

プロ野球中継の仕事は困惑の極みだった。「野球はすごく好きだったし、スポーツはすごく好きだったけど、それが仕事になるという意識は全くなかった。長嶋さん、王さんを筆頭に野球選手に憧れていた。野球のこともマニアっぽく知っていたと思う。でも、最初はそれを仕事という意識はなかった」。脚本なき勝負の現場で、テレビマンとしての役割を模索する日々だった。

先輩ディレクターの動きを見ていると気付きがあった。「試合の勝ち負けは変えられないし、プレーも変えられない。でも、それをどういうふうに見せるか。同じ試合でもディレクターのフィルターで全く違うものにも見える」。大学時代に磨いた感性がここで生きた。「誰を主人公にして、テーマはどうするか。スポーツ競技の中継の中で、どれだけドラマを見いだせるか。それがすごく面白かった」。

巨人など5球団で監督を務め、その采配が「マジック」と称された三原脩は「野球とは、筋書きのないドラマである」との名言を残した。

筋書きのないドラマでも、筋書きは描ける。スポーツ中継で培ったノウハウを巨人軍に生かす。(3・巨人社長編へ続く)

◆今村司(いまむら・つかさ)1960年(昭35)5月10日、神奈川・横須賀生まれ。東大文学部を卒業後、85年に日本テレビに入社。ボクシングのマイク・タイソン戦や巨人戦などを担当。15年1月に侍ジャパン事業を担う「NPBエンタープライズ」社長に就任。17年5月に日本テレビへ帰任し、19年6月から現職。同11日の就任会見では「SEIKO」をテーマに掲げ「サプライズ」「エンターテインメント」など、5項目の充実を約束した。