阪神は借金2の2位タイで、前半戦を折り返しました。昨季の最下位から上位を目指す戦いのなかで、前年不本意だった選手たちの奮闘は見逃せません。初めてシーズンの指揮を執る矢野燿大監督(50)が、どんなアプローチで接してきたのか。そのマネジメントを「矢野監督×○○」と題し「再生編」を3回連載でお届けします。第1回は「矢野監督×書く」で青柳晃洋投手(25)に迫りました。

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まだ葉桜の頃だった。開幕早々から、阪神の若い先発投手たちは、いつにもまして紙の資料をじっくりと読み込むようになった。登板した試合の対戦打者への配球を示すチャート表である。ストライクゾーンの四角い箱に全打席の球種やコースがマークされている。欄外や裏面に目を移す。青ペンでメッセージが書き込まれていた。

筆を手に取るのは矢野監督だ。試合後、スコアラーから受け取ったチャート表に投手の登板で気づいたことを書きとめていく。これを投手に手渡していくのである。矢野は「投手は、あまり話す時間がない。若いヤツ限定だけどね。俺は捕手だから捕手から見てこうだよ。俺は打者でもあるから、打者目線で見てこうだよとね」と意図を明かす。

現役時、チームを2度の優勝に導いた司令塔の「捕手目線」を、こんな形で生かしている。指揮官が重んじるのは「書く」という行為だ。「残してくれているか、捨てているか知らないけど、書いたものってそのまま残る。言ったことは、その場で忘れることもある。何かのときに振り返って、もう1回、見てくれたら、自分が忘れていることも見直したりできる」と話す。配球の傾向、心構えなど多岐にわたるという。

前半戦だけで自己最多の5勝を挙げた青柳は「矢野メモ」に救われた1人だ。5月6日のヤクルト戦。1回、先頭太田のセーフティーバントを一塁悪送球で三塁まで進まれ、2失点。敗戦後にチャート表を渡され、メモを読んだ。「僕のいいところはトライしていくこと。苦手なことも、ずっと練習する、挑戦していく。失敗で落ち込むんじゃなく、どう改善するか、どう取り組んでいくか。自分次第で何とかなるぞ、と書いていただきました」。新人時はフィールディングに難があった。見違えるように上達したが、時にはミスも出る。矢野の言葉に勇気づけられ、前を向いた。

昨季は1軍4試合登板の1勝止まり。今年は開幕から先発の一角を守り、健闘する。成長のカギは昨年の2軍生活にあった。青柳は2軍監督だった矢野に意見を求めた。「どうやったら抑えられますか」。速球頼みのパワー一辺倒ではなく、変化球も駆使して打者の間合いを外す投球に活路を見いだした。青柳は言う。

「最初の頃は『何が良かった?』とよく聞いていただきました。『俺はここがいいと思った』と、いいところを挙げてもらえます。それをコンスタントに増やしていけば、もっと上に行けると思う。現状より、良かったところや良くなるところを教えてもらえます」

いま、壁にぶち当たる。6月12日ソフトバンク戦を最後に白星が遠い。だが、暗闇を照らす“道しるべ”がある。「登板前に書いていただいたことを見返したりします。全部、取ってありますから」。変化球の使い方、ストライクゾーンの用い方など実戦的なノウハウも多いのだろう。「矢野メモ」は若き投手陣のよりどころになる。(敬称略)