球宴にルーキーで唯一選出された阪神近本光司外野手(24)も晴れの舞台で輝いた。6回1死から安打を放った巨人丸の代走で途中出場すると、宣言通りの「初球スチール」を決めた。4番手の楽天松井の初球にスタートを切り、西武森の送球をかいくぐって二盗成功。出場が決定した際に初球から盗塁を仕掛けることを宣言した公約を実現してみせた。13日に本拠甲子園で開催される第2戦では初安打も刻んでみせる。

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憧れの夢舞台で、持ち味を存分に発揮した。6回に代走で途中出場した全セの阪神近本が有言実行の初球スチール成功だ。

「自分のアピールポイントである足を見せることができて100点です。初球からの盗塁を求められていると思っていたので、初球から絶対走ってやろうという気持ちでした。(歓声は)走っているときも聞こえましたね」

巨人丸の代走で出場した6回1死一塁。近本は「絶対に走るぞ」と警戒された中で、初球から果敢にスタートを切った。「捕手にも投手にもプレッシャーかかるので(初球に)できる限りスタートを。それが一番球場も沸くし、チームも勢いづく」。セールスポイントである盗塁への思い入れは人一倍に強い。「自分が(プロで)生きていく上で必要なものです」。プロとして、自分の足に生活をかける自負がある。

淡路島で生まれ育ち、中学3年で進路に悩んだ。自身のレベルアップのため「島を出たい…」と決意の家出。冷蔵庫に張り紙をして、父親からの“許し”が出るまで帰らなかった少年は、ファン投票で球宴出場するまでに大きくなった。

意志を固めれば、絶対に曲げない。いちずな男だ。昨年3月、中学時代のクラスメートだった未夢(みゆ)さんと結婚。寄り添う妻と見てきた未来は無数にあった。「子どもの頃はケーキ屋さんに、パン屋さん。警察官に消防士…。大きくなってからは県庁に務めたいとか商社に入って働いてみたいなとか…」。本当の「夢」は、あまり語らなかった。ずっと胸中に秘めていた「プロ野球選手になりたい」という思いをかなえ、喜びを分かちあった。

試合前には巨人原監督から「これからどんどん(球界を)引っ張っていかないといけない選手にならないと」と声を掛けられた。敵将にも寄せられる期待を、近本は裏切らない。

強く思えば、夢はかなえられる。「野球人口も減少してきていると聞きます。自分の仕事や、子どもたちに夢を伝えられたらいい」。初心を忘れず、心から野球を楽しんだ。スピード感あふれる近本の盗塁は、きっと子どもたちの胸にも刻まれた。【真柴健】