プロ野球選手による野球教室からうまくなるヒントをもらいます。今回の講師は、元中日監督の谷繁元信氏(48=日刊スポーツ評論家)です。横浜(現DeNA)と中日でプロ野球記録の3021試合に出場。捕手として史上3人目の2000安打も達成しました。引き出しの多さを誇る谷繁氏の教えを2回にわたってお届けします。

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千葉・白井市で行われた野球教室は、雨が降ったりやんだりのはっきりしない天気だった。集中力がそがれ、不慮の事故、ケガが心配。だからだろう、地元の小学校高学年およそ40人を前にして、谷繁氏は大きな声で話しかけた。

「この天気に負けないよう、明るく楽しく、ちょっと厳しく指導していきたいと思います。まず、ウオーミングアップに10分やる。その間に全力疾走できる体を作りなさい!」

ピリッとした空気が流れ、子供たちは一斉にグラウンドに散らばっていく。さすが名選手にして監督経験者、ツボを心得ている。

10分後、再び子供たちを集め、こう聞いた。「ウオーミングアップを完璧にできた人は手を上げて」。パラパラと手が上がった中、真剣な表情で続けた。

「プロでもいい選手はウオーミングアップをしっかりやる。手を抜く人はケガするし、いいプレーなんてできない。覚えておいてください」

子供たちも「ハイ!」と元気良く答え、具体的な指導に入っていった。

<走塁編>

(1)プロのすごさ

子供たちを一塁に集め、リードした状態から二塁まで順番に全力疾走させる。手にはストップウオッチ。塁と塁の間は、プロと同じ長さに広げていた。

「今のは5・5秒。全員アウトになる。プロのピッチャーのクイックは何秒くらいか知ってる?」

プロの合格点は、1・2~1・3秒。一方、キャッチャーが捕球してから送球が二塁に届くまで、1・8秒か1・9秒が合格点。つまり、3秒台前半で二塁に到達しなければ、プロではアウトになる確率が高い。

「おじさんは一番速い時で、1・79秒で二塁まで投げていた。それでも、盗塁を許すことがあるんだから、プロって速いだろ。みんなそこを目指していこう」

もちろん、子供たちには無理な数字だが、この先の目安にはなる。あえて高い目標を持たせることが狙いの1つでもあった。

(2)一塁ベースの駆け抜け方

これは、たいていの子供たちも分かっていた。ベース右下の角を、できれば左足で踏む。ただ、歩幅が合わなければ右足でもOKで、「やっちゃいけないことはスピードを落とすこと」と谷繁氏は指摘した。

(3)オーバーラン

何人かの子供たちにやってもらうと、ベース左下の角を左足で踏むケースが多かった。谷繁氏も「おじさんも昔は左足と教わった」と言いつつ、「今の時代は右足」と断言した。

「ヤクルトの河田コーチ(雄祐=広島、西武などで活躍)が実際に計ってみたら、トータル的に右足でターンする方が速い。次の塁に(コース的に)まっすぐ入ることができる」

なるべく小さくターン、しかも、スピードが落ちないようにし、回ったらすぐにスピードを上げるイメージだ。走路の膨らみ方もかつてはベース手前といった指導が行われていたが、「急に膨らむのではなく、徐々に徐々に」が現代風だ。一塁への駆け抜け同様、歩幅が合わなかったら、逆の足(この場合は左足)でもOKと指導した。

<キャッチボール編>

ここでも、谷繁氏は指導する前に、まずクギを刺した。「キャッチボールをおろそかにする人はだめ。特に下半身を使って投げることを徹底しよう」。そして、手順を踏んで教えていった。

(1)地面にまず線を引き、もう1本、投げる方向に垂直に線を引く。交差したところに軸足を置き、足を上げて軸足1本でしばらく粘り、垂直の線に合わせてまっすぐ投げる。

(2)ひじの位置の確認。投げる方向に向かってまっすぐ立ち、利き手を頭に乗せる。その状態の位置が一番正しい。

(3)肩を回して投げるのではなく、肩甲骨を回して投げる感覚。「そうすれば力強く投げることができる」

(4)ひじと手首を使う。ただし、下半身と連動させることを忘れずに。

「キャッチボールを真剣にやっていると疲れてくる。下半身をしっかり使っていると、かなりしんどい。でもそこが大事」

次回は打撃に移ります。(つづく)

◆谷繁元信(たにしげ・もとのぶ)1970年(昭45)12月21日、広島県生まれ。江の川(現石見智翠館)では、87、88年夏の甲子園に出場。8強入りした88年は、島根大会全5試合で計7本塁打を放った。同年ドラフト1位で大洋(現DeNA)入団。98年の日本一に貢献し、01年オフにFAで中日移籍。中日ではリーグ優勝4度、07年日本一。13年に捕手として3人目となる通算2000安打を達成。14年から選手兼任監督となり、15年に引退するまでプロ野球記録の3021試合に出場。16年に監督専任となった。プロ通算2108安打、229本塁打、1040打点、打率2割4分。現役時代は176センチ、81キロ。右投げ右打ち。