猛虎史上最高の守護神が帰ってきた。4-2の9回2死二塁。フルカウントから巨人丸のバットが147キロ直球に空を切った。その瞬間、マウンドの藤川はグラブをポンとたたき大きく息を吐いた。「2点差はあったので、ランナーは気にせずにいきました」。先頭の代打立岡に中越え二塁打を浴びたが、坂本、丸ら主軸に仕事をさせず。中継ぎ陣がつないだゼロのバトンを落とすことはなかった。18年9月12日中日戦以来、317日ぶりとなる今季初セーブだ。

緊急事態だった。球宴明け3試合登板のうち2試合で失点していた今季19セーブの守護神ドリスが出場選手登録を抹消された。矢野阪神の命綱とも言えるストッパー。指揮官が最終回を託したのは経験豊富な藤川だった。ブルペンを預かる金村投手コーチは試合前に中継ぎ陣を集めて「球児につなごう!」と号令。その言葉通り虎のブルペン力が結集した。

培った経験と実行力は20代の選手が多いブルペン陣の「教科書」になっている。金村コーチは「練習だけで強くするんじゃなくて、シーズンを通じて強くすることを教えてくれる」と話す。いつ出番が回ってくるか分からない持ち場。登板が続くこともある。時には身体のケアに時間を割く。時にはランニングメニューを増やす。用意されたメニューだけではなく自分の状態を考慮し、ベストな調整法を探る姿は、まさに生きた教材だ。

「新しい戦い方になってくる。ドリスのこととかあるけど、勝負に私情を挟んではいけない。これから慣れてくると思う」。藤川は前を向いてそう話した。「チームにとっても新たなスタート。そういう試合になった」とうなずいた矢野監督は「抑えは球児っていうのは決めているけど、その前は状況を見ながら」と方針を示した。NPB通算226セーブ。名球会入りも見据えるレジェンドが窮地のチームを救う。【桝井聡】