阪神担当がそれぞれの視点で取材する企画「虎番リポート」。今回はルーキー近本光司外野手(24)の「送球」にスポットを当てました。

バットと足が注目される一方で、両リーグトップの10補殺と守備でも光るものを見せている。虎の数々のピンチを救った送球の秘密を探りました。

   ◇   ◇   ◇

ルーキーイヤーのシーズン開幕戦で最初に近本が見せたプレーは「肩」だった。3月29日ヤクルト戦(京セラドーム大阪)に2番中堅で先発出場。1回表の守備で、いきなり見せ場はやってきた。無死一、二塁から3番山田哲が中前打。近本はその打球をすばやく処理すると、ホームへ好送球。捕手の梅野は1歩分、三塁側に動いて捕球。二塁走者坂口をタッチアウトにした。最初からワンバウンド送球を狙ったのではなく、結果的にハーフバウンドとなったがノーバウンド送球を試みたように映った。

現在133安打。バットでは球団の新人最多安打記録に、あと3本と迫っている。足でも27盗塁と存在感を発揮。「走」「攻」が高く評価される一方で「守」の前評判は決して高いとは言えなかった。守備範囲には定評があったが、ドラフト直前のスカウト陣の中には「肩が強くないのでは」との声もあった。

近本も自身の送球について「アマの時は全然でした」と振り返る。プロ入り後、筒井外野守備走塁コーチのもとで、2つのことを意識してきた。1つ目は「コース(ライン)を狙う」ことだ。

近本 ラインにしっかり投げていれば、受け手が止めてくれるから大丈夫。(左右に)それてしまうとタッチに行くまでに時間がかかるけど、高さが違う分には大丈夫だと言われています。開幕戦の時が分かりやすいですが、山田哲人さんの打球で走者をアウトにした時は、ラインがずれていなかったからアウトに出来ました。

これまでの10補殺を見てみると、送球が高めに浮くことがあっても左右にぶれることは少ない。だから捕手は最短距離でタッチに行くことができる。

もう1つは「腕を振る」こと。「レーザービーム」を想像すると、地面すれすれでワンバウンドするような送球が思い浮かぶ。しかし、ワンバウンドよりノーバウンド送球のほうが、力を込めることができ、なおかつ到達タイムが速いという。

筒井コーチ ワンバウンドが速い、という固定観念を取り除くというか。「捕手はセカンドにノーバウンドで投げるでしょ? それはその方が速いから」と説明したりしました。その意識があり、結果的にワンバン、ツーバンとなったとしてもいいと思っています。

今春キャンプで、こんな送球練習があった。外野守備の練習で、選手それぞれがバウンドせずに届く距離まで捕手を前に出して守備位置から投げ込む。ノーバウンドで力を込める送球が意識づけされた。

さらに近本は「清水ヘッドには『自分のリズムでしっかり投げろ』と言われています。助走からのステップです」という。8月23日ヤクルト戦(神宮)では、1点リードの7回1死三塁の守備にて、中飛で三走山田哲を本塁補殺。浅めの打球に、しっかりと助走をとった上で送球した。

自分のリズムで助走をつけ、ラインを外さぬよう、思い切り腕を振る。プロ入り後の意識と努力で、開幕前の周囲の評判を覆した。【磯綾乃】