慎重に、そして攻撃的に。女房役のソフトバンク甲斐拓也捕手が千賀のノーヒットノーランを引き出した。「うれしいです。こんなことなかなか経験できないんで」。ヒーローのお立ち台で汗なのか涙なのか、133球をしっかりと受け止め続けた甲斐は喜びをかみしめた。

強気でエースを引っ張った。最後の打者井上への勝負球は迷わずフォークだった。思惑通り空振りに切った。「1発だけはやっちゃいけない。チームが勝つための戦略」。甲斐はキッパリと言った。伏線は1打席目からあった。2回先頭打席に井上を迎え、甲斐の要求は内角直球。3球とも154キロの速球を懐に投げ込み空振り三振に切った。死球を与えた5回の2打席目も内角を突いていた。

「千賀のために」。試合後、甲斐は何度もこの言葉を使った。5回1死二、三塁からボルシンガーのカーブを中前に運んだ。「何とか食らいついて打った。自分も悔しい思いをしていたし」。ここ2試合はマスクを先輩高谷に譲っていた。好リードで快挙をアシストしたばかりか、先制の決勝点も自らのバットで運んでみせた。3連敗で消沈していたエースの姿は女房役の「痛み」でもあった。「本当に千賀のためにと思った。いい顔が見られてよかった」。ようやく白い歯がこぼれた。【佐竹英治】