球団の福岡移転30周年イヤーに、19年ぶりの巨人との日本シリーズを制したソフトバンクの王貞治球団会長(79)が、さらなる「常勝球団」つくりに意欲を見せた。リーグVこそ逃したものの、開幕から故障禍に見舞われたチームを3年連続日本一に導いた工藤監督の手腕を高評価するとともに、若手育成のさらなる強化を図る考えを明かした。ファームの指導強化を求め、ホークスの黄金期形成へ熱い思いを語った。【取材・構成==佐竹英治】

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-巨人を倒して3年連続の日本一を達成

王会長 とにかく故障者がこんなに出たシーズンは過去を見てもない。本当に工藤監督がよくやりくりした。ファームの人たちが(1軍に)上がってきたけど、物おじしないで、自分の持ち味を十分に出した。工藤監督が旬の選手たちの力を引き出した。過去のプロ野球の歴史を見ても、これだけの故障者を出して、日本一になったのはないのでは。ファームとの連携がしっかりできていた。工藤監督が若い選手の状況をしっかり把握したというのが大きい。来年に向け層の厚みができた。監督としては若い選手たちの力を自分の目で確認できた。来年以降にものすごく大きなことだった。「チーム一丸」の戦いだった。

-リーグVは逃したものの、ポストシーズンは圧倒的な強さだった

王会長 「勝つことが特別なことじゃない」ということになった。僕がホークスに入ってから25年。秋山前監督、工藤監督が優勝争いは当たり前、その中で「勝つ」という戦いを続けてくれた。勝つのは当たり前だ、という「戦いの目標」を選手たちの心の中に植え付けた。戦うチームになってくれた。こんなにうれしいことはない。

-さらに強いチームを目指す

王会長 世代交代というのはどうしてもある。どのチームにもね。その時に若い選手の戦力を、実力を知っておくというのは大きい。周東のような足の速い選手とか。故障者が出たのは「ケガの功名」。そういうことが確認できたというのが大きかった。プロ野球の歴史が80年以上たって「個人対個人」の戦いから「チーム対チーム」の戦いに完全にシフトした。3~5年後を考えた上で、そこに当てはめられそうな選手を補強したい。投手はどうしても故障につながるケースがあるから、頭数は絶対に必要。野手は投手ほど数を必要としないけど、その分、スペシャリストが必要だ。

-育成に関しては

王会長 ファーム施設を選手がどう活用するか。設備がそろっているから選手が上達するというわけではない。教える側の情熱。教える側がもっとグイグイ引っ張っていくというところからスタートしたい。選手を目覚めさせるのはコーチですよ。コーチは体を張らないと使命は果たせない。これには限度、限界がない。選手たちに煙たがられていい。嫌われていい。後で「あの人がいたから」と言ってくれたらそれでいいじゃない。今は、選手の給料も高くなって、コーチに遠慮がある。もう少し徹底できるような体制をつくると同時に、コーチにそういう意識を持って選手に接するようにしていく、というのはチームの方針としたい。

-選手育成は厳しく?

王会長 厳しいというよりも「中身が濃く」ということ。厳しいとかしんどいととらえるんじゃなく、もっと高いところに上るためには「こういうことが必要なんだ」と。「野球にハングリーである」ということが一番大事。「優勝が当たり前」と思えるようになったら強い。パ・リーグの王者になり、日本球界の王者になり…。「めざせ世界一!」…。孫オーナーの不変の目標があるからね。遠い道のりになると思うけど、そこを目指してフロントを含めチーム全体が向かっていくことが大事だ。