日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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ミスタータイガースが宙に浮いている。阪神電鉄と再契約を結ぶことになっていた大物OB掛布雅之さんの肩書が年を越すことになったのだ。

球団がオーナー付シニアエグゼクティブアドバイザーだった掛布さんの任期満了による退団を発表したのは10月31日。しかし、約1カ月後の12月4日に阪神電鉄首脳が再契約を示唆した。

ふに落ちないのは、球団がリリースしておきながら、今度は親会社の電鉄本社が再び重用することだった。退団後の空白期間に何かが起きたとしか思えない。

タイガース生え抜きの掛布さんは、85年の4番打者としてリーグ優勝、日本一に貢献した。本塁打王3回、打点王1回。球団史上で欠かせないスラッガーといえる。

再契約が明らかになった際、電鉄会長の藤原崇起オーナーは「野球に情熱をもっておられる」と評価した上で「みんなが面白いなと思っていただく、そういうふうな仕事でなにかできないかという相談はさせていただいています」と語っている。

阪神グループトップの言葉を真に受ければ、そのまま球団に籍を置いたままでもおかしくなかったが、球団サイドはそれを良しとはしなかった。

これまでも掛布さんに伴う人事には理解しがたい点があった。2軍監督が掛布さんから矢野燿大さんに代わった理由を球団首脳は「世代交代」と説明した。

だが、矢野2軍監督が1軍監督に昇格すると、ファーム監督にはベテランの平田勝男さんが就いた。いったい世代交代の発言はなんだったのか?

藤村富美男さん、村山実さん、田淵幸一さんと続いたミスタータイガースの系譜。その伝統を継承すべき掛布さんの役割が定まらないまま年を越す。

この日、仕事納めになった電鉄本社で、掛布さんの肩書について聞くと、藤原オーナーは「まだです」と答えただけで社用車に乗り込んだ。

来シーズン創設85周年を迎える阪神球団。ミスタータイガースの越年には、不可解で、釈然としない思いが残った。