昨季0勝に終わった阪神藤浪晋太郎投手(25)の苦闘が続いている。沖縄・宜野座キャンプで山本昌臨時コーチ(54)の指導も受けてフォーム修正に取り組んだが、結果を残せず終了。復活を目指す右腕の「現在地」はどこにあるのか? 15年から取材を続ける遊軍・佐井陽介記者は、投球時に右足が描く弧の変化に注目した。

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宜野座キャンプ終盤、藤浪に2つの動画を見せてもらった。捕手の真後ろから撮影された投球。1つは昨季のモノ、もう1つは今キャンプのモノ。見比べれば変化が分かる。ボールを離す直前からフォロースルーにかけて、右足が描く軌道が明らかに違っていた。

藤浪 悪い時の右足は、がに股になって外から大回りしていた。骨盤が大回りして、右足から左足への体重の入れ替えがうまくできていなかった。今は体の中心に軸を置けていて、体の内側から右足が出てくるようになったとは思います。

キャンプ序盤のブルペン投球中、山本昌臨時コーチと右足の軌道を何度も確認する場面があった。手足が長い藤浪はプレートを蹴り上げた後、右足のつま先がマウンドの土に擦れて線を描く。昨季はプレートから離れた後、右足で三塁側に外回りの孤を作ってしまっていた。それが今、体の軸から内側の孤を作れるようになっているという。

昨季の2軍戦を思い返すと、藤浪は大げさに言えば立ち投げのようなフォームで打者と対している時もあった。今考えれば、それも骨盤が大回りして体重の入れ替えに失敗していたからだと分析できる。

藤浪 体重の入れ替えがうまくいかなくて、左足に乗らず右足に残ったままになっていたから、そう(立ち投げのように)見えていたのかなと思います。

極端な話、体の左端部分を軸に投球してしまうと、どうしても体を回転させる際の半径が大きくなる。体が大回りするので右腕が出てくるまでに時間がかかり、左肩が開きがちになる。当然、抜け球も多くなる。

今は体の中心に軸を置けるようになり、右足から左足への体重の入れ替えもスムーズになりつつあるという。確かに今キャンプは投球フィニッシュの際、左足に体重が乗って捕手側に飛んでいくような躍動感が戻ってきたようにも映る。

「いかに軸回転の半径を小さくできるか。ドアノブを引く扉ではなく、回転扉」。それは藤浪があらためて追求し続けてきたイメージでもあった。きっかけは昨年5月中旬。鳴尾浜で投球フォームの連続写真を分析しながら安藤2軍育成コーチと交わした「ダサいな」「ダサいですね」という会話だった。

「左肩が開いて右手も体から離れていた。まるで草野球で久々にボールを投げたおっちゃんみたいで(笑い)。そこで思い出しました。大阪桐蔭時代、西谷監督から『小さな空間で投げなさい』と言われていたな、と。より狭い空間で投げる。昔は何も考えずにできていたことですけど、悩んでいろんなことを考えるうちに、そこがおろそかになっていた」。以前、藤浪はそう振り返っていた。

藤浪 結局は自分の感覚が大事。良かった時の自分に戻ろう、ということになるんですかね。

もう1度原点に立ち返る。方向性を定め、地道にフォーム修正を続けてきた結果、ようやく長いトンネルの出口が見え始めているのかもしれない。

幸い、試行錯誤のタイミングでレジェンドとの出会いにも恵まれた。秋季キャンプから指導を受けた山本昌臨時コーチには「手首を立てて投げよう」という金言をもらい、左右のブレが小さくなった。不調時に目立ったすっぽ抜け球、引っかけ球も少なくなった。

藤浪 去年と比べてボールが強くなってきているとは思います。

本人も一定の手応えを感じている通り、一時期のどん底からは脱した感がある。悩み抜いた数年間が報われる日が近いことを、誰もが願っている。【佐井陽介】