「ギャップ」で封じた。楽天涌井秀章投手(34)が開幕から無傷の8連勝を挙げた。最速149キロの直球は威力十分。軸球で変化球との大きな緩急のギャップを作り出して日本ハム打線の打ち気をそらし、8回4安打1失点に封じ込めた。打線も今季6度目の2桁得点で強力援護。チームは引き分けを挟んだ連敗を3で止めた。

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涌井には、人を引きつけるギャップがある。三木監督が明かす。「意外と気さくな男なんだなと。マウンドでは黙々とやっている姿しか見ていなかった。寡黙というかおとなしい人間なのかなと思ったけど、本当に明るく楽しい、気持ちのいい性格を持っている」。試合前、1人で外野ポール間を走り込む姿。チームメートと野球談議を広げる姿。どちらも本来の姿だ。

マウンドでもギャップが光る。ポーカーフェースと投球の硬軟自在さ。打者の左右関係なく直球、変化球を織り交ぜ、両コーナーを突く…一転、直球で押し込むこともできる。王道の内外角、中央への直球を土台にボールを踊らせた。

5点差がついた4回1死。第1打席はスライダーで泳がせ三ゴロに打ち取った中田を前に、力が入った。「ゲームがだらけそうになると思った。3人で終わればゲームが締まって、うちの流れになる。力勝負でいこうと」。真ん中高めへ148キロ、149キロを続け連続空振り。外角スライダーで1球いなし、最後は外角真ん中いっぱいへ149キロ。「広い球場なので、打った瞬間、いかないなと思った」。思惑通り、フェンス手前で失速する右飛にねじ伏せた。

緩急差は最大41キロ。5回先頭王柏融には109キロカーブから、直球ではなく139キロの「こやシン」こと高速のシンカーにバットを止めきれず投ゴロ。「太田がしっかりリードしてくれた」と4回攻撃中にベンチ前で言葉を交わし、考えを緻密にすり合わせた。1巡目の各打者への初球は直球、カーブ、スライダーに「こやシン」で入った。2巡目は9人中6人、3度目の対戦時は7人中5人に前回と異なる球で入り、偏りを作らない。

試合後もギャップを見せる。「東京の菅野くんが先に勝つので。できる限り読売巨人軍の彼を追いかけていきたい」と淡々とした口調からウイットに富んだ表現で不意に笑いを起こした。冷静と情熱で開幕8連勝。まだまだシーズンは半分。涌井の底が見えない。【桑原幹久】

楽天浅村(6回に2点二塁打を放ち、涌井登板9試合中7試合で打点を記録)「1試合1打点を目標にしてますし、ワクさんを援護できたのは良かった」

楽天三木監督(涌井に)「丁寧にいつも通り、涌井のペースで投げてくれた」