巨人原辰徳監督(62)が、敵地名古屋でド派手に歴史的勝利をつかんだ。02年に就任し、監督通算14年目。「打撃の神様」で「V9監督」の川上哲治氏に並ぶ、球団史上最多タイの監督通算1066勝目を挙げた。ルーキー時代から育てたキャプテン坂本勇人内野手(31)のプロ入り初の3打席連続本塁打で打ち勝ち、チームは4連勝で今季最多の貯金20。2年連続のリーグ制覇へ、首位独走を続ける。

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成し遂げた記録の重さを忘れさせるほど、原監督はしのぎ切った1点の重みを感じていた。「苦しいゲーム。なかなか勝負は簡単にはいきませんね」。07年にルーキー坂本を延長戦の代打に抜てきし、プロ初安打初打点が決勝打になったナゴヤドーム。苦楽を共にした愛弟子の3発を守り切り「V9監督」に並ぶ節目の勝利を飾った。

「本当にまだ戦い半ばという中で、なかなか言葉が出てこない。今はまだまだ突っ走っている。感慨に浸る余裕はないし、その気持ちは明日も変わりません」

85年目を迎えた球団史上、巨人の監督は歴代12人しかいない聖域。36年以降の同期間で、4番は89代目、内閣総理大臣は42人目が誕生しようとしている。全員が生え抜きOBの中、原監督にとって川上氏との原風景は、かつての練習場、多摩川グラウンドにあった。

「後楽園に行く前、何回かバッティングを教わったよ。すごくユニークな練習だった」。ホームゲーム前の午前。OBとして訪れた大先輩に打撃マシンを体に向けられ、ぶつかりそうなボールを打ち返した。「体が開いたら打てない。『神様』だから」と懐かしむ。

川上氏と同じ巨人の4番を張り、02年からは同じ監督の道を歩んだ。教えられた練習は、不調の選手の矯正にも取り入れてきた。亡くなった13年10月28日は楽天との日本シリーズ中。都内に戻った第5戦の試合前に自宅を訪れた。「日本シリーズで1回も負けたことがない。9連覇。数字の重さ、偉大さを感じた」。

川上氏が11回連続で勝った日本シリーズで、昨季はソフトバンクに4連敗。原監督は「サインを出すのが好きな監督だけど、1回しか出せなかった。仕掛けようもなかった」。第2戦の犠打が唯一の作戦だった。走者を出し、きめ細かいサインで潮目を変える展開に持ち込めずに完敗。「悪いことは忘れちゃうんだ」と究極のポジティブ思考を貫く中で、交流戦を含めた「打倒パ」は近年の新たなテーマと感じ取っている。

東京ドーム監督室の壁には、銀の額縁に入った歴代監督のサインが飾られている。「ふ道心」と記された川上氏の左斜め下に、自らのサインを掲げる。「ジャイアンツは歴史を刻むことができる。我々はそれをつなぐ役割がある。偉大な球団だと思いますね」。巨人軍歴代最多勝監督として、2年連続のリーグ制覇、その先の大きな目標を取りにいく。【前田祐輔】

○…原監督は4球団が競合したドラフトで引き当ててくれた恩師の藤田元司氏を通じて、38歳年上の川上氏の人柄や采配に触れてきた。「藤田監督と川上監督はとても親しくされていて。藤田監督から教えていただいた」と言う。偉大な先人に並ぶ勝利に「まだまだ。今日のような勝負ばかりですから浸れないです。シーズンが終われば、また違った形で言葉にできるかもしれない」と引き締めた。