長年、虎投を支えたポーカーフェースがタテジマ最後のマウンドで力投した。今季限りで退団する阪神能見篤史投手(41)が今季最終戦のDeNA戦(甲子園)に登板。キレのある直球で空振り三振を奪うなど9回を締め、通算2セーブ目。ベテラン左腕が球威のある投球で現役続行をアピールした。

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代名詞のポーカーフェースは崩さなかった。9回、能見がタテジマ最後のマウンドに上がった。中継ぎでは封印していたワインドアップを披露。「もともと先発でやらしてもらってた。封印してたから、そこは何とかお見せしたいなと」。先頭の細川に中前打を浴びても動揺するそぶりは見せない。続くソトを初球、内角への直球で遊ゴロ併殺。最後は、柴田から渾身(こんしん)の148キロ直球で空振り三振を奪った。

「16年お世話になった球団で、本当に感謝しかないところでの最後のマウンド。楽しめたというか半分ドキドキしながら、1-0で来ると思ってなかったので、両方兼ねそろえて投げてました」

年下の仲間たちがマウンドに集まり、グータッチを求めると、やっと表情を緩めた。勝利を決める通算2セーブ目で最後の仕事を終えた。

グラウンドを1周し、サヨナラのあいさつ。梅野、岩貞、大山…。細身の背中を見てきた後輩たちが目を潤ませた。「なぜか大阪ガスの後輩のチカ(近本)がしっかり打って先輩に回して、とんでもないプレッシャーをかけてくれました。いい巡りあわせもありましたし、本当に球場のファンの方々がそういうのを引き出してくれたのかなと思います」。熱い思いを受け取りながら、能見の目には涙はなかった。

練習の直前にはチームメートから感謝のサプライズ。登場曲GReeeeNの「刹那」が流れ、「NOHMI 14」と書かれたTシャツ姿のチームメートやスタッフが出迎えた。「球児の次やったから、もうバレバレで。逆に先に行ったろと思って。先に行ってみんなを待ち構えようかなと。そんな感じだった」。クールな姿はいつもと変わらない。グラウンドであいさつを促された能見は「またみんなといい勝負が出来たらいいなと思いますので、その時はよろしくお願いします」と、対戦相手として再会することを誓った。

この日、ブルペンのホワイトボードには、手作りの“感謝状”があった。「口数こそ少ないものの、あなたの背中を見て成長している選手もたくさんいます。チームを去ってしまうのは残念ですが、あなたの体は41歳ではなく31歳です。まだまだ出来る」。この日の最速は149キロ。衰えることのないキレのある直球は、現役続行への強い意思表示。「引退じゃないんだから」。ひょうひょうと、そして力強く、新たな道へ歩き出した。【磯綾乃】