この冬、野球界の裾野を見てきた。全国で「野球離れ」の警鐘が鳴らされて久しい。現状を懸念し、新たなスタイルの小学生野球チーム「兵庫ベリージュニア」が12月20日、兵庫・西脇市で発足した。発起人で、巨人OBスカウトも務める監督の藤本貴久(58)は行く末を案じている。

「初めは『好き』が勝って野球を始めますがチームとして束縛して毎日、練習することで好きなことが嫌になってしまう。故障もしてしまう。結局、野球をやめてしまう子がめちゃめちゃ多いでしょう」

少子化で野球人口が減っているという見方は、表層的にすぎない。新チームの指導方針からは、小学生野球の問題点が立ち現れてくる。藤本は80年、巨人に入団。引退後、小学生も指導し、いまは兵庫北播リトルシニアで中学生を教え、全国大会に8度導いた。「教え始めて23年目になります」。新チームは練習が土日祝日だけ。週2日は全国の強豪を見渡しても珍しい。

「多いところは週5、6日です。私は20年以上前から(中学生指導でも)そこにあえてこだわってます」

狙いがある。まず子どもの自主性を促す点だ。「月曜から5日間、グラウンドに立たない。でも必ずみんなテーマがある。それを家でやる。課題を持った技術練習です。宿題ですね」。藤本に教訓がある。岐阜・中京商(現中京)で甲子園出場したが当時を「毎日(練習を)やると、宿題はアバウトになる。今日が終わればいい、今日が終わればいい…。そんな気持ちになってしまう野球でした」と自戒した。

体も守る。小学生野球は投球の球数制限などのルールを設けて肩や肘の故障防止に努めるが、けがをする選手は後を絶たない。藤本は「週2日の練習だけなら壊すまで投げない。5日間休むと、体の回復時間でもあるわけです。ほとんど肘肩を痛める子はいません」と明かす。いま、大会が増え、年間100試合もこなすチームもある。かつて美徳とされた猛練習をかたくなに続ければ故障が増える。

なにより、子どもの胸中は「やらされ感」で支配され、野球から遠ざかる。藤本は週2日練習で発育中の少年たちの心身を重んじてきた。適切な練習量で「好き」な気持ちを向上心につなげている。大人が作った枠組みに縛られ、やみくもに勝利ばかりを追い求めたとき、誰が犠牲になるだろう。「子ども目線」を欠いた野球は、つらく苦しいスポーツでしかないだろう。

新チームは、野球に夢を持つ小学生を世界に通用する選手へと育てていくのが目的だ。硬式球を用いるのも理由がある。「どこかで(軟式野球から)変わらないといけません。そこにロス時間がある。高校1年生は慣れる時間になってしまっている。それなら早くから硬式球を握ればいい。最終的にプロ野球まで近道になります」。軟式から硬式野球への転向で伸び悩むケースも多い。「真剣に野球をやれる時間が短すぎます」と、早い時期から硬式球に親しむ利点を強調した。

兵庫ベリージュニアは、あらゆる野球連盟に所属しないため、競技規則にとらわれず指導できる。小学生各リーグは投手から本塁までの距離も短縮してプレーするが、この新チームはNPBなど通常と同じ18・44メートルで練習する。「最初はほとんどノーバウンドで放れません。でも体は使い方を覚えていくし、体力は自然と後からついていく」。投げる距離が遠ければ体を大きく使って投げる。そこに工夫が芽生える。また、リトルリーグは投手の投球が打者に達するまで走者の離塁を禁じるが、新チームではリードを認める。盗塁、けん制の駆け引きを覚えるためだ。

「そこが野球の面白いところ。それが、最初からない野球でスタートするのは無駄ではないかと思うんです。シンプルに、最初から同じ土俵でやれば、あとは体力がついてくるだけ」

藤本は言う。「誰かが、少年野球というところに石を投げ入れて、ちょっと波紋を作ってもいいと思います。それは後退ではなく、前進する意味でね」。野球の将来を思えばこそ、新しいあり方を提唱する。(敬称略)【酒井俊作】

 

○…兵庫ベリージュニアはNPBだけでなく大リーグを目指す野球塾として、西脇市で活動する。小学5年生以上が対象。日本初の試みとして、日本プロ野球OBクラブの援助で、球界OBの定期的な指導を予定。また、海外チームとの国際交流試合も行う。すでに各連盟などに所属している選手も入部可。費用は毎月8000円。問い合わせ先は、母体となる兵庫北播リトルシニア野球協会のホームページ「お問合せ」から。