“成り上がり右腕”が、チームをてっぺんに導いた。

5年目の楽天西口直人投手(24)が1回途中から緊急登板。4回1/3を1安打1失点と好投し、プロ初勝利をつかんだ。無名高から専門学校を経て、16年ドラフト全体最下位の10位で楽天入り。ここ2年は1軍登板がなかったが、今季は救援枠で役割を見いだした。チームは3連勝でオリックスと首位で並んだ。

    ◇    ◇    ◇

試合開始から7分。ブルペンでキャッチボールを始めたばかりの西口は、テレビで先発高田孝の危険球退場を目にした。「ぱぱぱっと」その場で15球、ざわつくグラウンドで10球。1回に1点を先制され、なお2死一、三塁でマウンドに立った。打席は甲斐。3球ボールが続いたが、146キロ直球で左飛に抑えた。「野手の正面に飛んでくれて落ち着いていけました」。直後に味方が逆転。2回以降は最速149キロの直球、カットボール、カーブ、チェンジアップでソロ1本にしのぎ、千載一遇のチャンスで白星をつかんだ。

名もなき道から晴れ舞台にたどり着いた。大阪・山本高では3年春の府大会32強が最高。大学などから声もかかったが、高校2年秋から毎週通い詰めてくれた藤本政男監督が率いる、社会人チームの甲賀健康医療専門学校(現ルネス紅葉スポーツ柔整専門学校)へ進んだ。「高校の時は無名でたいした実力もなかった。2年間基礎体力をつけられました」。同校でのスポーツ栄養学、心理学などの授業も全て野球に通じると信じ、熱心に耳を向けた。

夢の扉は最下位でつかんだ。16年ドラフト10位でプロ入り。支配下87選手の中で最後に名前を呼ばれた。2年目の18年に先発で1軍デビュー。8回途中2失点と好投し「ちょっとした心の隙ではないですけど、すぐ(活躍が)できるんじゃないかと思った」。だが19、20年と1軍登板なし。先発へのこだわりを横に置き、ビハインド時のロングリリーフから念願の1勝が転がり込んだ。

プロ入り直後は同学年の甲子園スター、安楽らに圧倒されることもあった。今は「同級生に負けないように自分も頑張ろう」と思える。記念球は両親に渡す予定。「専門学校の監督、両親、(担当)スカウトの愛敬さんだったり、しっかりと、もっともっと恩返しができるようにしたいです」。グラウンドに立てば、経歴は関係ない。一獲千金を夢見て、勝利のために腕を振る。【桑原幹久】

◆西口直人(にしぐち・なおと)1996年(平8)11月14日、大阪・八尾市生まれ。小学2年から野球を始め、同4年から投手。山本高で3年夏は初戦コールド負け。甲子園出場なし。甲賀健康医療専門学校(現ルネス紅葉スポーツ柔整専門学校)から16年ドラフト10位で楽天に入団。憧れの投手は西武松坂大輔、元阪神藤川球児、元オリックス佐藤達也。趣味はカラオケで、得意な歌手は尾崎豊。183センチ、83キロ。右投げ右打ち。

▽楽天石井GM兼監督(プロ初勝利の西口に)「(5回で)どっちみち代えようと思って冗談で『もう1回行くか?』と行ったら『いやぁ。僕もう代わります』と苦笑いしていた(笑い)。本当に大きい仕事をしてくれた。将来的には先発として1本立ちしてほしい」