耳元でささやいた。「1球も振るな。見てこい」。巨人阿部慎之助2軍監督(42)が、次打者席の中田翔内野手(32)に指示を出した。16日のイースタン・リーグ楽天戦(ジャイアンツ球場)の6回1死一塁だった。2球続けてボール、2球続けて直球でストライク。外角に逃げる変化球でフルカウントとなり、最後は外角直球を“あえて”見逃し三振させた。

「4番DH」で出場させて2発を含む3安打3打点で大暴れした。3回、5回と2打席連続でいずれも左中間にアーチをかけた。11日の2軍落ちから、5試合で18打数11安打、打率6割1分1厘、4本塁打、13打点。同監督は「(振らずに)見にいっても中田翔クラスはフルカウントになる。そういうのがあるよと。タイミングをとって自分でどう見えるかというのも大事。そういう練習ができるのはここ(2軍)しかないから」と意図を明かした。

2軍は育成の場であり、再調整の場でもある。手駒を整えた状態で1軍舞台に送り込めれば、逆転Vが近づく。15日DeNA戦で代打八百板の適時打がサヨナラ勝ちへの機運を高めた。1軍で貴重な一打を決めた教え子に「『ああいう時のためにやろうね』と。そこでつかめるかは本人次第。打ったからまたチャンスがもらえる。そこをつかんでほしいな。みんなね」。鬼軍曹よりも親心そのものだった。

この日、1軍登録中で出場した増田大、岸田、北村、1、2軍を行き来する広岡、香月らを試合後に打撃ケージに呼び寄せ、助言をしながらバットを振らせた。試合前は中田と広岡の1時間に及ぶ、打ち込みを見守った。交流戦中に2軍再調整となった丸にも徹底的にバットを振り込ませた。1軍に呼ばれた選手に阿部2軍監督は耳元でささやく。「つかんでこい」と。【為田聡史】

▽巨人中田(イースタン・リーグ楽天戦の3回に涌井から2ランを放ち)「打ったのはフォークです。日々、ファンの皆様の拍手や視線に勇気付けられています。皆様の力でスタンドまで届いてくれました」

◆巨人の再生選手メモ 6月5日に2軍降格した丸は合流初日から阿部2軍監督と打撃練習。6月18日に1軍復帰すると9試合連続で安打を放ち、前半戦終了まで78打数31安打、打率3割9分7厘を残した。北村は6月10日に1軍復帰後、二塁手として先発に固定。打撃も好調で6月の月間打率は3割5分3厘だった。広岡は5月11日に1軍昇格し同21日に本塁打。6月15日に抹消されたが、同30日に1軍復帰すると翌日に2安打を記録。増田大と岸田は8月13日から1軍帯同。増田大は代走の切り札として12試合に出場。岸田は先発マスクを被った9月9、10日に安打を打っている。