台湾プロ野球は中信兄弟が台湾シリーズで統一を下し、1日に4連勝で優勝した。一夜明けた2日、元阪神の林威助監督(42)が取材に応じた。就任1年目で頂点。激闘ぶりを聞いた。

「ずっと何年か、台湾シリーズに行っても優勝できていなかった。ファン、メディアのプレッシャーは半端なかった。短期決戦で勢いが出て良かったと思う」

短期決戦のツボを押さえていた。後期優勝の統一との戦いで、徹底的に弱点を突いた。初戦はチームの勝ち頭で今季16勝の助っ人左腕デポーラを指名して白星発進。2戦目に起用したのは、昨季まで阪神に在籍した呂彦青だった。12勝の元阪神鄭凱文らに先んじて、シーズンわずか2勝の呂を抜てき。大胆にも映るが、理由は明快だった。「相手は左投手を苦手にしていたからね」。呂は5回1失点だった。敵が嫌うことをする。勝負の鉄則を貫いた。

シーズン終盤の11月、チームは調子を落とした。SNS全盛の時代だ。連敗が続くと首脳陣や選手に対する批判も目に入る。林監督はナインに伝えた。「悪いメッセージを見ずに、試合だけに集中しよう。我々は1つのチーム。目標に向かって、行動していれば、助け合うことができる」。シーズンの最終盤、疲れがたまっていた勝ちパターンの救援投手を休養させたこともある。前期に続き、後期優勝も全力で狙いながら、先の戦いも見据えていた。土壇場で、心身を束ねるマネジメントが光った。

林監督は柳川(福岡)から近大をへて02年ドラフト7巡目で阪神に入団した。11年間のプレー後は生まれ故郷の台湾で現役続行。17年に引退後、指導者に転身した。根底にあるのは日本の野球だ。「今年が(監督)1年目で、自分がどういう野球をやりたいか、コーチにも選手にも伝えないといけない」。現役時はスラッガーとして鳴らしたが、いまは対照的な守り勝つ、スモールベースボールを進める。リーグ最多の400四球と最少のチーム73失策が象徴だろう。今季から飛ばない低反発球が導入され、転機を勝機へと変えていった。選手に言い続けた。

「2ストライクに追い込まれたら、逆方向や、粘る野球をしていこう。四球でもチームに貢献できる」

台湾野球は伝統的に打高投低で、大味でも豪快な打撃がスタンドを沸かせてきた。プロ野球は「職棒」である。そのバットは、つなぎよりもパワーが美徳とされた。だが、近年は投手力が高まり、野手も意識を変える必要があった。「これまでは打って打って、という野球だった。球が変わって、いいチャンス。去年みたいにこすっても本塁打になるケースは減る。日本のようにバントやエンドランをできるかが強いチームになるために大事」。手だけで操作しがちだった、バントの構えから見直した。

球が飛ばなくなれば、ゴロが増える。春季キャンプでは守備を徹底的に鍛えたという。「守りから入らないといけない。他チームはボーンヘッドや平凡なミスをしている印象がある。ウチが少なかったのも、勝てた1つの要因」。2軍監督として3年間で2度、2軍優勝に導いた手腕を1軍でも発揮。10年以来、11年ぶりの台湾シリーズ制覇に導いた。だが、林監督はまったく違う地平を見ている。

「東京オリンピックを見ていてもね、日本は作戦面で勝っていたよね。バントのサインを出すにしても『何で俺がバントなんだ』と思っているようでは、強くならない。当たり前のようにバントを決める。1人でも、そういう選手を作っていければ、将来的に国際大会で日本や韓国に近づいて、勝負できると思う」

阪神で星野仙一監督に勝負の厳しさを学び、主砲の金本知憲に野球への情熱を学んだ。まだ道半ば。この日は台南から拠点の台中に帰った。声は浮ついた感じもなく、普段通り、落ち着いていた。「積み重ね、だからね」。その目に世界が映っていた。【酒井俊作】