巨人原辰徳監督(63)が歴史的1勝をつかんだ。「日本生命セ・パ交流戦」の初戦となるオリックス戦に4-2で勝利し、監督通算16年目で1181勝を達成。歴代10位の星野仙一監督に並んだ。監督就任前のコーチ時代に薫陶を受けた当時の指揮官だった長嶋茂雄終身名誉監督と同じスタイルを貫きながら、現代の名将としてV奪還への道を突き進む。

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組んでいた両腕を、原監督が勢いよくほどいた。同点の8回無死一、二塁。ウォーカーの打球が三遊間を破った。左翼手の返球よりわずかに早く代走湯浅が本塁に滑り込むと、ベンチ最前列に身を乗り出し、目を見開いて湯浅を迎え入れた。節目の1勝にも「もう全く意識がなくてですね。私が今のところは突っ走っているだけなのでね、そういう考える余裕もないですね」と冷静に受け止めた。

監督生活16年目、9度のリーグ制覇と3度の日本一。追い求め続ける背中から学んできたものが、輝かしい成績の礎にある。

「俺は、それはミスターに教わったね」

02年の第1次監督就任前、ヘッドコーチとして長嶋監督から英才教育を受けた。試合中のベンチでは常に近くに構え、目で追った。そんな日々で、長嶋監督が攻撃中は立ち、守備中は座っていることに気が付いた。ちょっとした動作にも、明確で強い意思を感じた。

「立っているとカーッてなる。攻撃はその方がチームは動くと思うし自分も躍動的になる。守っている時は監督としてベンチでデンと座っている方が、投手に何か起こったとしても動揺を与えない。(選手は)監督を見ているでしょうよ。(長嶋監督から)こうしなさいなんてことは言われていない。でも3年いると『あっ、なるほどな』と」

長嶋監督からバトンを託されると、コーチ時代に巡らせた思いは確信に変わった。「守っている方がカッとくるのよ。座っていると、まだ隠せる。やっぱり動揺しているとみんな見ていると俺は思っている」。この日も投手陣が奮闘する姿をじっと見詰め、攻撃時は仁王立ちで見守った。指揮官それぞれで違うが、原監督は長嶋監督の所作を継承し、歴代の監督通算勝利数で10傑入りを果たした。

10位で並んだ星野仙一監督からは、退任が決まって迎えた03年の甲子園での阪神最終戦で「もう1度勉強して戻ってこい。くじけるな」と花束を渡された。「尊敬する指導者であり先輩であり人間。(自分は)並ぶに値するものではないよ」と敬い、続けた。「まだ新米の1年生よ。そういうつもりでやっていることが、いいモチベーションになっている」。選手を信じ、攻撃時は先頭に立ち、防御時は腹をくくって鎮座する-。巨人の長として、不動心でさらに高い頂に挑み続ける。【浜本卓也】