女手一つで育ててくれた母に恩返しする。「プロ野球ドラフト会議supported by リポビタンD」が20日、都内で開催され、苫小牧中央の最速151キロ右腕、斉藤優汰投手(3年)が広島のドラフト1位指名を受けた。広島では次代のエースと期待されており「将来は(ヤクルト)村上さんを抑えられる投手になりたい」と口にした。苫小牧出身の専大・菊地吏玖投手(4年=札幌大谷)もロッテ1位で指名され、初の道産子ダブル1位指名となった。

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苫小牧中央の剛腕が次代の球界エースを目指す。斉藤は同高体育館で野球部員48人、報道30社80人に見守られ待機。午後5時15分、既に公表していた広島から1位指名を受けると会場から盛大な拍手が沸き起こった。さらに2分後、単独指名が決まると、じっと動画中継の画面を見つめ喜びをかみしめた。新井監督の名前が入った広島のユニホームをまとい担ぎ上げられると「球界を代表する(ヤクルト)村上選手を抑えられるような投手を目指したい」と意気込んだ。

プロで活躍し、女手一つで育ててくれた母明美さん(56)に恩返しする。中学時代、30センチの大きなサイズの靴が地元岩見沢市内ではみつからず、母が夜勤のある看護職の休憩時間の合間に、ネットで一生懸命探し、購入してくれた。一緒に指名を待った明美さんに「ここまで育ててくれてありがとう」と花束を贈ると、母は「本当にうれしいです」と目頭をおさえた。

絶対的な即戦力候補の投手がいない今年のドラフトで、伸びしろある素材型の有望選手として広島からのラブコールを受けた。森下、栗林と日本を代表する投手がいるが、既に20代半ば。斉藤は次代のエース候補と期待される。13日に1位指名公言を受けてからは自分で広島の球団について調べた。「戦争でつらい思いをした人たちが力を合わせてつくった市民球団。今は明るく元気な印象が強い。その中で自分も広島の人たちに勇気を与える存在になれたら」と思い描いた。

高2の冬は、2学年上の日本ハム根本のランニングメニューをまね、雪の中、毎日約1時間ポール間走のあと、本塁から外野までの連続ダッシュという激しい「根本式トレ」でスタミナをつけた。2年目の今季、初勝利を挙げた先輩を意識し「僕も2年目までに1軍で投げられるように。将来日本シリーズで対戦したい」。互いに力をつけ、大舞台でのバトルを夢見る。【永野高輔】

「ミステリー」解明求め進化

<とっておきメモ>

斉藤の趣味は小説を読むこと。「特にミステリーやサスペンスが好き」。中2のころ、最初に読んだのが湊かなえの「ポイズンドーター・ホーリーマザー」という作品で、ハマった。「なんかどろどろしていて面白かった。湊さんの本は何回か読んでいます」。大きな体から投げ下ろす豪快な投球のイメージとのギャップに、驚く。

野球部の練習が忙しくなっても「ちょとした10分休みとか、寝る前とか、暇があるときに読んでいます」。甲子園出場をかけた最後の夏。プレッシャーのかかる中でも、激しいトレーニングの合間、自分なりにリラックスする時間をつくるのが、ルーティンだった。

読書好きだが、得意科目は国語ではなく数学。「問題が解けると気持ちがいい。いろんな解き方があるので、それを知るのも好き」。投球でも試行錯誤しながら、自分に合った答えを導き出す作業が得意だ。「いい投手のいいところを試して、合わなかったら元に戻すとか。良かったら少し取り入れたり。数学に対する考え方に似ているものがある」。下半身強化で制球難を克服し、大きな体を生かすため今春は、セットポジションからワインドアップにフォーム改良と、自分で考え、進化を遂げてきた。

ミステリー好きも、結末について「犯人を予想して当たった試しがない。楽しく読むだけ」。奇想天外な驚きの展開を推理するのは苦手だが、自分を客観視し、足りないものを地道に探し組み合わせ「答え」を導き出せる。根気強さを秘めた18歳が、プロ野球という“難題”解決に挑む。【アマ野球担当・永野高輔】

◆斉藤が日本一打たれづらい投手を目指す!? 広島からの指名が決まると、苫小牧市の人気洋菓子店「三星」の人気商品「よいとまけ」のジャンボ版が贈呈された。表面のハスカップジャムが手につくことが有名で、味は良いが自社CMでも「食べづらい」と宣伝するお菓子。同社から「日本一食べづらいお菓子を食べて、日本一打たれづらいピッチャーになってください」と激励を受けると、一口食べ「とてもおいしいです」と、顔をほころばせた。

◆兄の1位指名を一緒に見届けた苫小牧中央の弟翔太投手(1年) とても優しくて野球もうまい兄。僕もまずは兄に追いつけるように頑張りたい。将来は、兄が果たせなかった甲子園に出たい。