星野仙一さんに最後にお会いして、もう5年余り。17年11月28日、野球殿堂入りを祝うパーティーだった。都内ホテルに1000人以上が集まり、散会後あいさつだけしたら無言で握手を返された。お疲れの様子だったが、その37日後に帰らぬ人となるとは。ただ、写真を見返すと、ずいぶんほっそりされている。

何かおかしいと思えなかった自身の不明を恥じるばかりだが、会の最後に星野さんが行ったスピーチは強く印象に残っている。

「野球の底辺を広げるため、アマチュア球界とプロ野球に分け隔てがあってはいけない。『野球』でモノを考えないと。そのために、アマチュアとプロが1つになって、子供たちに、どう野球をやらせるかです。全国津々浦々、子供たちが野球ができる環境を作ってやりたいという夢を持っています」

400人ほどのアマチュア指導者も招待されていた。「夢」を大事にする星野さんらしい決意表明と感じた。今となっては、次代に託した思いとなる。

年が明けた。3月のWBCで世界一奪回を目指す侍ジャパン栗山監督はキャスター時代、星野さんを取材するたびに言われた。「クリ、しっかりやってんのか。野球に恩返しせい」。代表監督の大先輩になった。08年の北京五輪前、オランダの大会視察にもついていった。その時も言われた。「我々は野球に恩返ししなきゃいけないんだ。なんで、こんな生活ができてるか分かってるのか」。

栗山監督は「とても大先輩のように大きなことはできないですけど、今、僕ができることを精いっぱいやる。ちゃんと、やれてるのかな。また、怒られるんじゃないかな」と言った。ともに代表づくりの過程でアマチュアの選手を呼んだ。61歳で世界一に挑むのも同じ。天国の大先輩も、きっと見ている。【古川真弥】