日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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北の大地に春風が吹いた。日本ハムの新球場「エスコンフィールド北海道」が本格開業。開幕セレモニーを彩ったのは、世界的な絵本作家の五味太郎だ。このメモリアルに合わせて絵本を描き上げ、アニメーション化し、音楽をのせた。

日本の赤ちゃん絵本、児童図書の草分け的存在で知られ、大人から子供までが楽しめる絵本を400冊以上出版してきた。非日常空間で「ボールパーク」と位置づける日本ハムは、自由なイメージの“ゴミワールド”に白羽の矢を立てた。

その作品が国内最大級の大型ビジョン(縦16メートル、横86メートル)に流れると、観客席からどよめきが起きた。音楽隊が出てきて、なぜか象が現れ、水玉がボール、電車が走り、飛行機が飛び、魚が泳いで、人々が楽しんで、再び音楽隊がラッパを鳴らした。

なんだか楽しい。最後にボールを受けたのは、元日本ハムのダルビッシュ有だった。「世界がまだ見ぬボールパークを作ろう。2023。プレーボール!」。WBC世界一の立役者が声を上げると、一斉に拍手が鳴り響いた。

その間、映像に「IT’S ALL IS BALL」の文字が浮かび上がる。音楽をつけたのはミュージシャンの馬場庫太郎。巨匠の五味は90秒間の“大作”のコンセプトを「すべてはボールであるというイメージで描いたつもりなんだ」と教えてくれた。

「真面目に野球を楽しもうとか、これは遊園地だなんていうとだれちゃう。プレーボールって言葉が好きなんだ。勝ち負けは二の次。CMっぽくなるのもいやだったしね。北海道の雰囲気、友達とのつながりを表現したつもりだけど、なんかある?」

新球場を中心にした『北海道ボールパークFビレッジ』は「開放感」と「臨場感」があふれるフリーな居場所を“売り”にしている。小さい子供、親たちにはおなじみだろうが、五味作品には相変わらず独特の感性があふれる。

新型コロナウイルス感染が拡大した時期に「なんだか息苦しい世の中になりましたよね?」と問い掛けると、「今までって息苦しくなかったっけ?」と切り替えされてハッとさせられる。常に人生観が詰まっているから面白い。

「絵本ってのは、表に出てなくても芯がないとダメなんだ。そして隠れたところに哲学を持たなくちゃいけない」

清宮パパの克幸と観戦した五味は「絵本を作るのは仕事でなく人生なんだ。身についているからおのずと描ける」と信条を口にする。「なんか異種格闘技みたいだったけど、よく出来たよ。日本ハムにはエンターテインメント性を感じるよね」。

『みんな うんち』『きんぎょがにげた』などベストセラー多数。野球ファンで、大の虎党の五味は『ぼくはタイガースだ』という題名の絵本も書き下ろしている。「みんなボールでつながってるってことさ」。日本ハムの歴史的な記念日になった夜。「この続きはまたね」とグータッチをして別れた。(敬称略)