惜しかった! でも、ナイスピッチ!! 4年目の楽天滝中瞭太投手(28)が残り2アウトで、球団史上初となるノーヒットノーランを逃した。最速は143キロながら、最遅94キロのカーブを織り交ぜ、49キロ差の緩急で西武打線を料理。9回1死まで3四球のみに抑えた。1死一塁から初安打を許してお役御免も、今季2勝目を挙げた。

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滝中は「ここでかぁ」と下唇をかんだ。9回1死一塁、西武の代打平沼にカウント1-1からフォークを右前に運ばれた。123球目にして初安打。「かなり効果的に使えたなと思います。でも、あれは落ち切らんかった」。今春キャンプで田中将に教わったフォークを最後に捉えられ、降板を告げられた。悔しさを携えベンチに下がったが、大きな拍手で迎えられた。

遅く、落差のあるカーブも効果的だった。150キロ、160キロの速球が当たり前となったパ・リーグで、140キロ台前半でも勝負できる。カーブがあるからだ。「勇気はいります。でも、僕のカーブは(やまを)張ってない限り、ホームランはないと思っている。あんなに遅いので」。7回1死走者なし。怖い、怖い、中村を迎えた。安田の初球のサインは、そのカーブ。昨年5月13日、カーブを左中間席へ運ばれていた。1年前がフラッシュバックした。だが、過ちは繰り返さない。「外へ、低く。当たっても一番飛ばないところに」と念じた。低く制御し、空を切らせた。カウントを有利に進め、4球目のフォークで空振り三振を奪った。

カーブは、けがの功名だった。龍谷大時代、右肘のトミー・ジョン手術を受けた。「肘から抜けないと投げられない」カーブを、リハビリで投げ続けた。参考にしたのが、球界屈指のカーブを誇る岸だ。「すごいなあ。あんなに投げられたら」。まさか、プロで同僚になるとは思ってもいなかった。1年目。もちろん、アドバイスをもらった。

母の日の朝、母明美さんから「今日はおじいちゃんの誕生日だから」とスマホに連絡が来た。「すごい、圧のかけ方」と苦笑いしたが、快投が何よりのプレゼント。「母方の祖父。これも母の日ということで」と笑った。チームは最下位と苦しむが、これで5位日本ハムとゲーム差なし。まだまだ、ここから。滝中が、みんなに勇気を与えた。【古川真弥】

▼滝中が9回1死から代打平沼に初安打を許した。9回以降の初安打でノーヒットノーランを逃したのは22年7月20日の椋木(オリックス)以来。楽天では19年7月19日ソフトバンク戦の美馬、20年8月5日同戦の涌井に次いで3人目。美馬は9回無死から代打栗原に、涌井は9回1死から代打川島に安打を打たれ快挙を逃している。

○…楽天石井監督(滝中の快投に)「カーブを生かす中間球、真っすぐが大事。固執せずに(球種を)そろえることなく、ストレートをしっかり投げられたのが、カーブが一番効いている要因。ノーヒットノーランはご褒美でついてくる。8回までノーヒットで重ねて、試合を作れたことが大事」

○…楽天小山投手コーチ(滝中の交代に)「うちは勝っていかないといけないチーム。ヒットを打たれたら交代でした。よく頑張ってくれました。今日みたいな投球を続けてくれれば」

◆滝中瞭太(たきなか・りょうた)1994年(平6)12月20日、滋賀県生まれ。高島高では2年秋からエース。龍谷大では関西6大学リーグ通算16勝。ホンダ鈴鹿に進み、日本選手権に2度、都市対抗に3度出場。19年ドラフト6位で楽天入団。21年には10勝をマークした。180センチ、93キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸2600万円。