神様は、打席から動かなかった。ヤクルト村上宗隆内野手(24)は、バットを振り抜き、打球を悠然と見つめた。いや、慌てる必要もなかった。1点リードの6回1死二塁。フルカウントからの7球目。オリックス斎藤の高めに入った直球を完璧に捉えた。打った瞬間に、アレと分かる打球。推定130メートルのオープン戦2号。右中間スタンドの上段へ放り込んだ。「手応えは完璧です」と悠々自適にダイヤモンドを一周した。

神様は変えた。第1打席は二ゴロ、第2打席は空振り三振。そこまでは、今季から使用する、昨季から約1・3センチ長くしたバットだった。第3打席のどでかい1発は、昨季まで使用していた“打棒”に戻して生まれたものだった。「久々に使ったので。でもまあ、しっくり来ていますし、そこは今後いろんなものを試しながらやりたいなと思ってます」。高津監督は「1本欲しい人に1本出たかなっていうゲームだったか」と笑った。

神様には強力な“燕軍”も駆けつけていた。試合後の出陣式。バックスクリーンの大型スクリーンに映し出されたのは、満面の笑みの男の子だった。昨年のファン感謝祭で行われた「借り人競争」の「選手に似ている人」で、最も村上に似ていると話題を呼んだそっくりさん。思わぬ登場に、高津監督はもちろん、村上も笑って手を振った。久しぶりの“対面”。村上は「いや別になんとも(笑い)」と笑ったが、そっくりさんも笑顔にする、神々しいまでの1発だった。【栗田尚樹】