下村よ、復活を待ってるぞ! 阪神下村海翔投手(22=青学大)が今月上旬「右肘内側側副靱帯(じんたい)再建術(通称トミー・ジョン手術)」を受けた。ドラフト1位入団ながら入団即、今季絶望のいばら道で始まったプロ野球人生。同手術の経験者である才木浩人投手(25)、島本浩也投手(31)、高橋遥人投手(28)、小川一平投手(26)、岩田将貴投手(25)がリハビリを開始した後輩にエールを送った。【取材・構成=中野椋、波部俊之介】

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トミー・ジョン手術を受けた選手はみな、今も肘に消えない手術痕がある。痛みが分かるから、下村に言えることもある。

才木は20年11月に手術。22年2月に実戦復帰し、同年に1軍で勝利を挙げた。手術から約1年3カ月で実戦復帰した例は、同手術の経験者たちによると「早い方」だという。今や1軍先発ローテーションを担うフル回転ぶり。「(手術は)できるだけ早く受けた方がいい」と下村の決断に賛成だった。

下村は肘にメスを入れない保存療法も検討していた。才木も「やれることは全部やった」上での手術だった。その経験から「保存療法をやっても、来年には絶対『無理です』ってなっていると思う」。それなら一般的に手術後4カ月程度はノースロー期間が必要なトミー・ジョン手術を早く受け、リハビリに専念した方がいいという考え。島本、高橋、小川、岩田も同じ意見だった。

才木と同時期に手術を受け、約1年6カ月で実戦復帰した島本は「ほぼみんな復帰している」と成果の大きさを明かす。ただし、道のりはたやすくはない。「リハビリがキツいのもそうですけど、精神的なところでもキツい」と回想した。

高橋も同意する。「朝、みんながキャッチボールしている時がキツい。その時に自分はランニングかウオーキングしかできないですから」。メンタルのコントロールは長いリハビリを乗り越える上で、ひとつの鍵になりそうだ。

「僕らって“毎日野球”だけど、自分は野球ができない。友だちと話したり、気持ちを紛らわせることができたら楽になるかと思います」と、下村にささやかなアドバイスも授けた。自身は22年4月に手術を受け、昨年6月には肩にもメスを入れた。17日のウエスタン・リーグのオリックス戦で実戦復帰の予定だ。

「めっちゃうらやましい」と言うのは、九産大3年の8月に手術を受けた岩田。「自分で病院に行って、自分でリハビリもしてましたから」。大学生だった当時、手術費は親に負担してもらった。専門のトレーナーもおらず、毎日が手探りだった。

握力がゼロの状態からスタートしたため「じゃんけんの練習からしました」。それでも大学4年の秋季リーグには短いイニング限定で登板することができた。だからこそ、鳴尾浜にトレーナーが常駐し、洗練されてきたリハビリプログラムを行う仲間の背中も押せる。「球団のサポートがあれば絶対に復活できる」と力強く言った。

小川は昨年9月にトミー・ジョン手術を受けた。2月にキャッチボールを再開。今は35メートルほどにまで距離を伸ばし、ブルペン入りも見えるところまできた。「焦っちゃうけど、楽しいです」。下村の数歩先をいく先輩になる。

オフには家族や友人から「大谷翔平とほぼ一緒やん!」と言われたという。「大谷さんが受けてくれたおかげで、みんな知っているんです。野球選手といえば、という手術になっている。説明しなくてもいいからありがたいです」。“トミー・ジョン手術あるある”を笑顔で話せるほど、前向きに日々を過ごしている。

トミー・ジョン手術経験者は、肘にある手術痕以外の共通項もある。「手術させてもらった上でチームに残してもらえているので、球団に恩返ししたい気持ちが強くなる」と口をそろえる。さらに小川は「シマさん(島本)、才木が活躍しているのも大きいと思います」。復活し、1軍でバリバリ活躍している前例があるからこそ「自分も」と思うことができる。

島本は「リハビリをゆっくりじっくりやって」と下村にエール。「じっくりやれば復帰できる、というのは僕らが証明しないといけない。トミー・ジョン手術をしても活躍できると証明していけたら」。これからリハビリの日々を歩むルーキーに、先輩たちの姿は大きな励みになるはずだ。

◆下村の現状 今月上旬に手術を受け、11日に退院した。大学時代の疲労回復を優先し、キャンプは2軍の沖縄・具志川でスタート。ブルペンでの投球練習も1度にとどめるなどスロー調整した。だがこの時、すでに痛みを発症しており、さまざまな選択肢も検討しながら3月中旬に手術を決断。プロ1年目のデビューは絶望となった。「この決断を今後、いいものだと言えるように、一生懸命取り組んでいきたい」とリハビリに取り組んでいる。

◆トミー・ジョン手術 損傷した肘の靱帯(じんたい)を切除し、他の部位から正常な腱(けん)を移植する手術。74年に故フランク・ジョーブ博士が、左肘の腱(けん)を断裂した通算288勝のトミー・ジョン投手に初めて施術したことから通称でこう呼ばれる。日本では、古くは村田兆治(ロッテ)桑田真澄(巨人)らも受けた。13年にはカブス藤川球児も受け、16年に阪神復帰後も活躍した。かつては最低2年とされていた治療期間も大幅に短縮。エンゼルス大谷翔平も18年10月に同手術を受け21年に9勝。23年9月には2度目となる同手術を受けた。

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