<巨人9-5阪神>◇21日◇東京ドーム

 巨人がついに首位に並んだ。2点を追う5回、阪神の繰り出す4投手に襲いかかった。鈴木尚広外野手(30)の逆転二塁打や李承■内野手(32)のダメ押し7号3ランなど打者11人で一挙8点を奪い、16年ぶりの10連勝を飾った。5回に先発上原浩治投手(33)に代打を送った原辰徳監督(50)の思い切った采配が大量点の引き金になった。阪神との首位決戦に3連勝し、7月9日には最大13ゲームあった差を追いついた。セ界最大の逆転劇が見えてきた。

 先を読み、いくつものパターンがシミュレーションされていた。5回1死一塁、原監督の視線の先で、坂本の打球がライト前に落ちた。コーチ陣に指示を出し、ベンチを飛び出した。「代打大道」。68球しか投げていない先発上原の交代だった。

 勝負どころをかぎ分ける嗅覚(きゅうかく)が、一挙8点のビッグイニングの口火になった。「あそこは勝負。勇人(坂本)がよくつないでくれた。ツーアウトなら、そのまま上原でしたけど、一、二塁でも、一、三塁でもワンアウトで回ってきたら勝負だった。今日の岩田は非常にいい内容でしたから」と早めの決断を振り返った。

 好投を続けていた岩田の指先に力が入り、大道が死球で出塁して1死満塁に。続く鈴木尚が右中間へ逆転タイムリーを放って苦手左腕をKOした。さらに4番手アッチソンからラミレスがしぶとく中前に落とすタイムリー、李がトドメの3ランを右翼へ打ち込んだ。原監督は「大道がチャンスを広げ、尚広(鈴木)、そして4番5番がよく打ってくれたね」とたたえた。

 独走を続けていた“トラの首根っこ”をつかまえた。3連戦の初戦前、ミーティングでの軌道修正が、勢いを加速させていた。選手間で手をつなぎ、主将の阿部にゲキを飛ばさせた時だった。

 原監督「あの時、阿部は少し違っていたんだ。確か“追う者の強みを生かして戦おう”と言ったんだよ。初戦は大事だし、あの一戦にかける気持ちはそれでもいい。でも、目標は初戦に勝つことでも、3連勝することでもない。だから“今日は勝つ。でも、追いつくことが目標じゃない。おれたちの目標は優勝することだ”と言い換えたんだよ。阿部は突然振ったから、仕方ないけどね」

 初戦をものにした後も、2戦目に大勝した後も、チームにスキはなかった。「たとえ3連勝しても、次はクライマックス出場を懸けて必死にくる広島と4連戦。ホッとして、気を抜ける状況じゃないから」と集中力を持続させる言葉を、大一番の前から考え、ミーティングで披露した。

 92年6月以来の10連勝で、首位タイにまではい上がった。最大13ゲーム差は0になった。「まだ振り返れない。振り返って多くの言葉を出すのは得策じゃない。これからも全員で戦っていくだけ」と話す原監督の表情は厳しかった。残り13試合。阪神は5位ヤクルト、最下位横浜の試合を多く残しているが、巨人は3位を争う広島と中日の試合が多い。手綱は緩めない。原監督がペナントを振り返る時が“奇跡”を成し遂げた時になる。【小島信行】※■は火へんに華