<パCS第1ステージ:オリックス2-7日本ハム>◇第2戦◇12日◇京セラドーム大阪

 ポストシーズンの主役は、今年も健在だ。日本ハムがクライマックスシリーズ(CS)第1ステージを連勝で突破。初戦白星で王手をかけた第2戦で、オリックスを7-2の快勝でうっちゃった。稲葉篤紀外野手(36)が故障欠場する緊急事態も、今季から指揮を執る梨田昌孝監督(55)の適材適所の采配でピンチを打破した。3位で進出した第1ステージを勢い十分に抜け、17日に開幕するパ・リーグ覇者西武との第2ステージ(大宮、西武ドーム)へ。目指す3年連続の日本シリーズ進出への挑戦権をつかんだ。

 大阪を見下ろした。梨田監督が、お立ち台に上る。勝利監督インタビュー。口元を緩ませながら、悦に入った。2戦2勝、スイープで「古巣」を撃破。かつての教え子ローズらが一塁側ベンチ裏へ、消沈して消えていく中、雄弁に勝因を語った。選手を持ち上げ続けた約3分間。往年の近鉄ファンも多数いたであろうスタンドから、温かい声も耳に届いた。「最後にオリックスを倒して…。『頑張れ』っていうコールをもらえて良かったわ」。

 1度は「敗者」になったグラウンドへ「勝者」になって戻った。04年。近鉄の歴史に幕を下ろす最後の監督として、身売り騒動、球団合併に翻弄(ほんろう)された。抵抗しても、時代の流れに逆らえず、負けた。そのオフ。合併球団の初代監督を務めた故仰木彬氏(享年70)に入閣を要請されても固辞した。選手、指導者として29年間、袖を通したユニホームを脱いだ。

 今季、ライバル球団の指揮官として球界へカムバック。CSでは数奇な運命を感じさせる、オリックスとの対戦となった。この日は早朝5時に起床。初戦白星を挙げた前夜、いつもチェックするニュース番組も見ずに床についた。球場へ到着すると、稲葉の肉離れの一報。スイッチが入った。「(CSが)長引くとこっちが不利になる。何とか決めたかった」。

 大騒動だったあの1年間の時のように、大一番で腹をくくった。1番に野手転向3年目の糸井を抜てき。稲葉の代役の3番にはリードオフマンの田中を配置転換した。「坪井しかいないと思っていた。大正解だった」。外野に1つ空いた穴を、今季打率2割2分のベテランに任せた。その坪井が4安打1打点。相手守備の乱れにつけ込みながら、完勝した。「日ごろ、やっている野球ができた」。柔軟かつ大胆なタクトで、危機的状況を打ち破った。

 札幌で単身生活を送る夫を幸斗子夫人(53)がサポートし続けた。本拠地試合のたびに、兵庫・伊丹の自宅から空路、駆けつけた。手料理でもてなし、これまで通りの生活に近づけた。時にはたった1人でサウナへ通って汗を流し、マッサージを受けた。慢性的な腰痛に悩む体もケア。自らストイックな環境をつくり、指揮に集中してきた。

 1度はサヨナラを告げ、旅立った思い出の場所。11日には長女明希さん(24)、この日は長男和利さん(23)もスタンドから、父の姿を見届けた。梨田監督は穏やかだが、力強く宣言した。「3位からだけれど、頂点を目指して頑張っていきたい」。大阪を抜け、さらなる舞台は埼玉。そして日本シリーズ進出で北の大地へ-。夢とロマンを求める野球旅は、また大阪を出発点に北上していく。【高山通史】