<阪神14-2広島>◇20日◇甲子園

 初のお立ち台。阪神ジェン・カイウン投手(21)はぎこちなく帽子を取り、ハニカミながら第一声。たどたどしい日本語が虎党の心をくすぐる。「アリガトウゴザイマス…」。恥ずかしそうに笑う晴れ姿を、ユニホームの下に隠れた宝物がそっと見守っていた。

 5月3日巨人戦以来、3度目の先発マウンド。「チャンスをモノにしたい。何とか連敗を止めたかった」。3回に2点先制されたが、直後に打線が5得点。さらに大量援護を受けたが緩まなかった。「0-0の気持ちで」。140キロ後半の直球に多彩な変化球を交え、丁寧に低めを突いた。7回112球を投げて2失点。登板11試合目にして、来日初勝利をゲットした。

 入団テストを経て、3月に阪神入り。慣れない異国、鳴尾浜での寮生活。同じ台湾出身の蕭が世話役になってくれたが、仲間にとけ込むには時間が必要だった。レッスンを受け続け、今では日本語も上達。ただ入寮当初、1人で外出できる場所は近くのコンビニぐらいだった。何もすることがない。夕食後、何度となく寮の2階に下りた。共有スペースにある大型テレビが友達。必死でリモコンを操作し、ケーブルテレビのスポーツ専門チャンネルを探した。言葉が分からなくても理解できるプロ野球中継で、寂しさを紛らわした

 心の支えはお守りだった。ユニホームの下、首もとに光るシルバーのネックレス。両親からプレゼントされたものだ。「台湾にいた時、『お守り』にもらったんです」。遠く離れた故郷で活躍を楽しみにする2人のためにも。異国での挑戦から逃げる訳にはいかない。台湾では8月8日が「父の日」。今年は自分の給料で、父・鄭春田さんと母・王月桃さんの2人に食事を楽しんでもらった。だが、それ以上にプロ初勝利は最高の贈り物。「両親に報告したい。(ウイニングボールは)台湾の家に持って帰ります」。21歳の若武者は一瞬、子供の顔に戻った。

 故郷の先輩で、歓迎会を開いてもらったこともある中日チェンの活躍に励まされ、そして炎天下の鳴尾浜で汗を流し、久々のチャンスで結果を出した。なかなか現れなかった先発ローテ「6番目の男」がついに誕生。「ガンバリマス!

 ヨロシクオネガイシマス!」。初々しくも頼もしい言葉が、秋空の聖地に響き渡った。

 [2009年9月21日11時8分

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