<日本シリーズ:日本ハム4-2巨人>◇第2戦◇1日◇札幌ドーム

 手負いのエースが一世一代の投球で勝った。日本シリーズ第2戦は日本ハムが先発ダルビッシュ有投手(23)の好投で巨人を破り、1勝1敗のタイにした。左臀部(でんぶ)痛で42日ぶりの実戦となったダルビッシュは、スローカーブを中心に緩急を生かしたかわす投球で、巨人の重量打線を6回7安打2失点に抑えた。シリーズ前は登板も絶望的とみられていたが、執念でマウンドに上がり、大きな1勝をもぎとった。3日の第3戦からは東京ドームに舞台を移して行われる。

 理想と現実のはざまで揺れながら、ダルビッシュが身を削った87球でケジメをつけた。42日ぶりの電撃復帰。巨人をねじ伏せ、1勝1敗のタイにした。「一世一代の投球ができた。(復帰は)楽しかったけれど、その前に仕事があるんで。終わってみて、楽しかったかなという感じ」。お立ち台で笑顔を見せず、最後まで緊迫感に満ちていた。

 プライドは排除した。使命と向き合った。復帰を決めたのは、楽天とのクライマックスシリーズ(CS)第2ステージ第3戦の行われた10月23日。ブルペンで立ち投げを再開した時だった。「ストライクが入るのかとか、打者に対した時の球がどうなのかとか」との不安と闘いながら覚悟を決めた。「今日は腰を使わず、手だけで投げた」。重心移動が低い独特のフォームをモデルチェンジした。左臀部痛を抱える腰に負担がかからないよう、投球時に足を踏み出す幅を縮めた。

 手探りで強力打線を抑え込みながら一瞬、本能が目覚めた。ヤマ場は5回。2死から3連打で満塁のピンチを招き、小笠原を迎えてスイッチが入った。148キロの速球を2球続け、カウント1-1。104キロのスローカーブで追い込み、最後は内角低めスライダーで空振り三振に切った。ガッツポーズを繰り出した。マウンド、ベンチへの戻り際と2度、腹の底から絶叫した。梨田監督は「ダルビッシュが投げられたことが一番大きい」と最大の勝因に挙げる大一番の見せ場で主役を張った。

 この日の登板前の昼下がり。「どうやったら一番抑えられるか」と思案した。西武岸が昨年、巨人打線を翻弄(ほんろう)したスローカーブが脳裏に浮かんだ。通常はフォーム調整などで投げる程度の球種。動画サイトの「YOU

 TUBE」で岸の画像を確認し、ぶっつけ本番で使ったという。この日のカウント球として多投し、幻惑した。直前調整でも直球は「135キロくらいしか出ない」ため緩急勝負へ切り替えた。「あんなヘロヘロの球でも戸惑っていた」と知恵を絞った秘策が効いた。

 登板を回避したCS第2ステージは全4試合、ベンチ裏で待機、応援部隊に回った。楽天岩隈の先発完投から中1日での中継ぎ登板を直視し「やらなアカンと思った。(復帰決意の)最後のひと押しになった」。折れそうな心も復活し「今の状態では、出来過ぎ以上」という、奇跡的な白星へつながった。CS直前、試合を見届けた紗栄子夫人の故郷宮崎での合宿中は、暗闇にいた。それでも実家から球場まで、身重の体でハンドルを握り、球場まで送迎してくれた献身的な支えがあった。3度目の結婚記念日まで、あと10日のこの日。ようやく愛妻と幸せな帰路に就いた。【高山通史】

 [2009年11月2日9時1分

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