<阪神0-3巨人>◇7日◇甲子園

 巨人が、亡くなった木村拓也内野守備走塁コーチ(享年37)に阪神戦の勝利をささげた。3回、小笠原道大内野手(36)の3号2ランなどで3点先行。松本哲也外野手(25)がダイビングキャッチを見せれば、先発の西村健太朗投手(24)は7回無失点と好投。木村拓コーチの魂を受け継ぎ、ユニホームの袖に喪章をつけて臨んだ巨人ナインは、一丸となって白星をもぎ取った。この日、セ、パの各球場では球団旗が半旗で掲げられ、試合開始前には選手とファンが黙とうをささげた。

 「タクさんのために」。巨人ナインの思いは1つだった。午前7時ごろ、チーム関係者を通じ、選手全員が木村拓コーチの悲報を知った。それから約14時間後、底知れぬ悲しみを胸に、ユニホームの左袖に喪章をつけて戦った選手は、チーム一丸となって勝利をつかみ取った。

 口火を切ったのは、「19歳の時からいろんなことを教わった」と感謝する坂本だった。0-0で迎えた3回1死三塁、阪神久保から先制の左前適時打を放った。開幕2戦目から10試合連続安打。「どうしても今日の試合は先制点がほしかった」。負けられない試合で主導権を握る一打だった。

 勝利を大きく引き寄せたのは、試合前に「(木村拓コーチの)魂を受け継ぎ、胸に刻んで戦う」と誓っていた小笠原だった。3回2死一塁、2球目の直球を右翼席に運んだ。セ、パ両リーグで100本以上の本塁打を放っているが、過去、甲子園では不発。記念すべき甲子園第1号に「こういう中で打てたというのは、拓さんが力を貸してくれたのかなと思う」。遠くを見るような目で、話した。

 木村拓コーチの思いが届いたかのような、スーパープレーも飛び出した。3回2死一塁、左中間を破りそうな飛球に、中堅の松本がダイビングキャッチ。胸を強打しながら、ボールは離さなかった。「拓さんのような全力プレーを心掛けようと、再確認したところですから」。目に、そして心に焼き付けたものをグラウンドで体現した。

 チーム宿舎を出発する前の会見。多くの選手は憔悴(しょうすい)した表情だったが「自分たちはやるしかない」(小笠原)と、各選手が特別な思いを胸に抱いて戦った。主将の阿部は2安打に加え、1死球1犠打。先発の西村健は7回無失点と好投し、救援陣はピンチを招きながら無失点でしのいだ。選手それぞれが、「自己犠牲」の気持ちが強かった木村拓コーチのように勝利という目的に向かって、力を出し尽くした。

 試合後、今季初スタメンで2安打を放った二塁手の脇谷は「(木村拓コーチが)後ろにいて、2人で守っているような感じがした。頑張れ、頑張れと言ってくれているような」と目を潤ませた。小笠原は「(今日は)木村コーチが勝たせてくれたと思う。これからも(木村拓コーチの)遺志を引き継いでやっていきたい」と、話した。木村拓コーチは帰ってこない。だが、その魂は、選手の心の中で間違いなく生き続けていく。【久保賢吾】

 [2010年4月8日8時42分

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