<横浜0-4ヤクルト>◇23日◇横浜

 ヤクルトのドラフト1位中沢雅人投手(25)が、横浜4回戦(横浜)でプロ初完封勝利をマークした。コースを突く丁寧な投球で4安打に抑え、ルーキー一番乗りの完封で2勝目を挙げた。打っては4打数3安打と、新人投手としては1972年(昭47)の阪神山本和行以来となる猛打賞を記録。新人投手の「完封&猛打賞」は、ドラフト制度が始まった66年以降初の快挙となった。中大-トヨタ自動車を経て入団した技巧派左腕が、日本プロ野球界の歴史に名を刻む活躍を見せた。

 霧雨が降る横浜の夜空の下、中沢がスタンドの視線を独り占めにした。悠々と投じた108球。3試合目の先発登板で、プロ初のシャットアウトをやってのけた。「自分でもそんなに早くできるとは思ってなかったので、うれしいです」。

 6回までは、わずか1安打ピッチング。完封が見えてきた8回、先頭の武山に二塁打を打たれ、1死三塁とピンチを招いたが「とにかく投げきって勝とうと思った」。割り切ることで、冷静になった。代打金城を内角直球で捕邪飛に仕留め、続く早川も内角カットボールで二ゴロ。大胆な内角攻めで得点を許さなかった。

 直球は140キロにも満たない。その分、縦に割れるカーブとカットボールの切れ、ピンチでも冷静に制球できる安定感は一級品だ。故障が「大成」への転機となった。富山商時代はプロも注目する最速148キロの本格派左腕だったが、中大2年時にひじを痛めた。球速も落ちたことで「自分は速球派じゃない」と、技巧派に変身。社会人でも制球と変化球に徹底的に磨きをかけた。

 圧巻はマウンドだけではなかった。2回、2死無走者でこの日最初の打席に立つ。カウント2-1から、清水の直球をミートして中前に運ぶ記念すべきプロ初安打を放った。これで「打者」としても波に乗った。4回2死一塁で中前に運ぶと、6回2死一塁ではカーブをうまく右前へ。球団史上、38年ぶりの新人投手による3安打猛打賞をやってのけた。

 プロ初登板となった先月30日の中日戦(神宮)は3回打席に立ち、いずれも三振に終わった。プロの投手のボールに「ダメだな。打てないんだろうな」と痛感していただけに、この日は「打撃は正直、得意じゃないんですけど…。奇跡です」と、本人も驚く固め打ちだ。高校時代は通算3本塁打だが、3割以上の打率を残した。3年夏には「4番投手」として甲子園に出場。柳川(福岡)戦で初戦敗退も、4回に右翼線への二塁打で出塁し、チーム唯一の得点に貢献した。冬季は雪の中での練習も多く、その経験もあって冷たい横浜の雨も問題ではなかった。

 新人投手の完封はヤクルトでは94年山部太以来、16年ぶり。開幕から負けなしの2勝は、86年矢野和哉以来24年ぶりだ。まさに、記録ずくめの活躍でチームを救った。「先は長いので、全力でチームの勝利に貢献していきたい」。ヤングスワローの勇姿が輝かしい今年のヤクルトで、ひときわ中沢がまぶしい。【由本裕貴】

 [2010年4月24日13時38分

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