<阪神1-0ヤクルト>◇28日◇甲子園

 小兵なんて呼んだら3割目前のリードオフマンに失礼ですね。阪神平野恵一内野手(32)が決めた。快投のヤクルト由規に7回1死からワンツースリー・パンチ!

 男前藤井彰、神様桧山に続いて平野が仕留めた。首位ヤクルトを10勝3敗と圧倒し、3・5ゲーム差の接近は5月12日以来の風雲急。竜も巨人も迫っているけど、ツバメに強いトラが優位じゃない?

 198センチの阪神メッセンジャーが笑って膝を折り曲げた。隣ではにかんだのは169センチの平野だ。身長差はあっても貢献度は劣らない。「ヒーローを1人挙げると」-。悩ましい質問に真弓監督はこう答えた。

 「1人というのは難しいが、あそこでヒットを打ってくれた平野です」。

 子どもたちも多く詰めかけた夏休み最後の日曜日。小さな男が主役だった。

 150キロ台の直球を連発する怪腕由規に苦しんだ。両軍決め手を欠いて迎えた7回。1死から藤井彰と代打桧山が連打で一、二塁。またとないチャンスで平野の目がギラついた。

 「藤井さんと桧山さんがつないでくれた。絶対打たないといけなかった。由規くんの出来からしたら甘い球は1球しかない。高めをうまくたたけた」。

 初球の150キロをはじき、ライナーで左翼手前へ。二塁走者の藤井彰は左翼に捕られる危険性を顧みずスタートを切った。1点を奪うためのギャンブル。「好走塁に感謝しています」と平野が頭を下げた。

 この日も2安打で、由規には今季は10打数5安打。攻略法は口を閉ざすが、若き右腕との勝負は特別な時間だ。「1打席目に直球で押された。向こうはいけると思っただろうし、こっちは『負けないぞ』と」。

 昨年、打率3割5分と大ブレーク。統一球の対応に苦しんだ今年も3割ラインをとらえている。推進力になるものが「怒り」だ。23日の巨人戦は3四球1犠打。2打席以降はスイングしなかった。仕事は十分果たしたが「気持ち悪い」と不機嫌。翌日、周囲が驚く今季初本塁打を放った。小技のイメージがあるが「打」のこだわりが強い。この日も「1試合目(5打数無安打)の悔しさがあった」と怒りをパワーに変えた。

 ブラゼル離脱後は2番から1番打者に固定され、期待に応えている。後輩に与えたアドバイスが胸に残っている。オープン戦で1番を任された俊介が苦しんでいると、平野は「お前はレギュラーなんだから思い切っていけ。失敗して後悔するより、自分の思うようにやれ」と励ました。自分自身の言葉を実践し、打線を引っ張る。

 指揮官は“上”を強く意識している。「とにかく1つずつでも近づいていく。ゲーム差ということではなく、早く1勝でも近づきたい」。ツバメを丸のみした猛虎がまた加速した。