<巨人0-5阪神>◇7日◇東京ドーム

 打った瞬間、阪神藤井彰人捕手(36)はオーバーフェンスをあきらめた。うつむきながら走りだした。ところが、本人の感触とは裏腹に歓声はどんどん大きくなっていった。顔を上げると左翼スタンドが揺れていた。二塁ベース上で塁審に確認し、驚きの表情で今季1号だと知った。

 「芯は芯なんだけど、上がり過ぎたから。僕の力では入らないと思った。審判に確認したら『入った』というから、びっくりした」

 3回、杉内の速球を振り抜いた1発。これが杉内、スタンリッジの投げ合いを動かした。主導権を握った。本人すら驚いた先制弾にベンチは大盛り上がり。生還すると、恒例のポーズも封印し、ひたすらヘルメットをたたかれた。“男前”が最高の笑顔を見せた。

 打率3割5厘-。恐怖の8番打者が今の猛虎打線を象徴している。

 「8番も打順の1つなんで。投手にまわせば次の回につながるし、ランナーがいれば、どんな時でも打ちたい。剛(西岡)がいるから(1番に)まわせばかえしてくれるパターンもある」

 ポイントゲッターにもなれる西岡という1番打者が加入した今季、猛虎の8番打者は、打線の終わりではなく、始まりになる。

 帰りのバスへの途中、藤井彰が記憶をたどった。

 「去年の得点と、打点に並んだんちゃうかな…」

 現実は並んだどころではなかった。早くも11得点、11打点で昨季(10打点、9得点)を超えた。投手陣を支える一方、打線の“潤滑油”にもなっている。激務の疲れも、充実感が吹き飛ばしてくれるはずだ。【鈴木忠平】