西武涌井秀章投手(24)の今季年俸に関する調停委員会(委員長・熊崎勝彦コミッショナー顧問)が28日、都内の日本野球機構(NPB)で開かれ、現状維持の球団提示2億2000万円から3300万円増の、2億5300万円に決定した。涌井の代理人・大友良浩弁護士(41)と西武前田康介球団本部長(65)に、金額と理由を明記した調停書が手渡された。年俸調停は今回が7度目。調停額が球団提示額を上回ったのは、01年の下柳(当時日本ハム、現在阪神)以来、3人目となった。

 希望額2億7000万円には届かなかったが、涌井に利がある結果となった。熊崎勝彦委員長(68)は「涌井選手が5年連続2ケタ勝利となる14勝を挙げたことなど諸要因から増額を決めた。金額は10%増では低いし、20%増では高すぎる。3人のあうんの呼吸で15%増が妥当という結論が出た」と話した。

 2億円とみられていた昨季年俸は実際は2億2000万円。球団側は、09年シーズンより査定ポイントが下回ったことと、シーズン終盤の優勝がかかった試合で結果を出せなかったことを、現状維持の根拠としていた。一方の涌井側は、8月後半以降1勝に終わったものの、年間14勝(8敗)を挙げたことや、5年連続ローテーションを守り2ケタ勝利を挙げた実績を主張。他球団のエースの年俸や、西武の過去のエース松坂や西口らの年俸を参考資料として提出していた。

 前巨人監督の堀内恒夫委員(63)は「現状維持の理由として『大事な試合で負けた』というのは違うと思う。プロの世界では3年以上2ケタ勝ったら、それが実績として評価されるのは常識」と話し、現場経験者の視点で涌井側を後押し。熊崎委員長も「涌井選手の前半10勝がなかったら優勝争いに加わっていたかどうか分からない。年俸とは年間を通じての成績に対する対価」との明確な理由から、結論を導き出した。

 「新制度」で初の調停でもあった。08年まで、調停委員会はコミッショナーとセ、パ両リーグ会長の3人で構成され、球団側が有利とされていた。だが、09年にコミッショナー事務局、セ・パ連盟の3局が統合され両会長職が廃止されたことと、選手会から「メンバー構成が不公平」と指摘されたことなどから、弁護士2人と野球経験者を加えた中立的なメンバー構成になった。その結果、過去の案件より公平性が保たれた結論に至ったともいえる。

 さらに調停委員会から、西武球団への苦言も飛び出した。契約更改交渉の過程で、涌井が希望額を2億5000万円まで下げたのに対し、西武側は一貫して現状維持を提示し続けた。同委員会は調停の要旨のなかで、「球団側にも妥結に向けてのもう少し柔軟かつ積極的な姿勢が見られても良かった」と鋭く指摘した。今後の年俸闘争に一石を投じる結論となった。【鳥谷越直子】