【マイアミ(米フロリダ州)20日(日本時間21日)】苦しんだ先に“マイアミの奇跡”が待っていた。

侍ジャパン村上宗隆内野手(23)がWBC準決勝メキシコ戦で生き返った。4-5で迎えた9回無死一、二塁、中堅左へ逆転サヨナラの2点適時二塁打。試合前まで17打数4安打、0本塁打で、この日も3三振を喫していたが、大谷の二塁打、吉田の四球に続き劇的な一打でヒーローになった。日本はWBC通算37戦目で初のサヨナラ勝利。21日(同22日)に3大会ぶりの世界一をかけ、米国と対戦する。

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もみくちゃにされながら、村上が両拳を突き上げた。汗か、涙か、ウオーターシャワーか、もう分からない。「小さい頃にイチロー選手の決勝タイムリーを見た時、『WBCで活躍する』と感じた思いがあった。最高の一打になりました」。09年WBC決勝、韓国戦でV打を決めたイチローに夢をもらった少年が14年後、マイアミの歓喜の中心にいた。びしょぬれのユニホームが誇らしかった。

1点を追う9回無死一、二塁。本音は「バントも頭をよぎった」だった。2、4、6回といずれも走者を置いて三振。7回には4番吉田が3ランを放つまで、ベンチで待機する山川が視界に入り「代打かな」と思った。今大会0発。背中を押してくれたのは他でもない、栗山監督の信念だ。

「監督が『ムネに任せた』と言ってる」

ネクスト・バッタースボックスで城石コーチから伝えられた。「その一言に救われた。打つしかない、と。腹をくくっていけた」。ガエゴスの151キロを中堅左へ。一塁走者は俊足の周東。「サヨナラだと思っていました」と確信した。

昨年11月の強化試合から侍の4番を任された。期間中、初対戦の投手にも難なく対応する姿に栗山監督は驚いた。周囲に「なぜああいうことができるのか」と聞いて回ったが、答えは見つからず。指揮官の理解を超えた3冠王の思考は「WBCでも、アメリカに行っても大丈夫」と絶大な信頼につながった。たとえ4番を外れても、それは変わらなかった。

どれだけ打っても、満足しない夜がある。7日の強化試合オリックス戦で3ラン。試合後、ヒーローインタビューを打診されるも「僕、1本しか打ってないんで」と断りを入れた。マイアミの夜、正真正銘のヒーローになっても「本当に周りの力、チームのありがたさ、団結をすごく感じました」。周囲への感謝の言葉があふれ出た。米国との決勝。どん底から生き返った男には、もう1度、ヒーローになるチャンスがある。【中野椋】

▽WBCの復活男

◆福留孝介(06年)19打数2安打(打率1割5厘)で迎えた準決勝の韓国戦は、大会7戦目で初めてスタメン落ち。スコア0-0の7回1死二塁で王監督から代打に指名されると、先制2ラン。決勝のキューバ戦でも9回に代打で2点適時打を放った。

◆イチロー(09年)2次ラウンドで12打席連続凡退するなど、準決勝まで38打数8安打(打率2割1分1厘)と不振。決勝の韓国戦で6打数4安打をマークし、延長10回2死二、三塁で林昌勇から勝ち越しの2点打を放って連覇を決定づけた。

▽城石内野守備走塁兼作戦コーチ(村上に栗山監督の「ムネ任せた」の言葉を伝え)「それも含めて、もう打つしかないからっていうことは言いました。本人の顔がすごく、もうゾーンに入っていたっていうか、不安そうな感じはなかったので。本人はどう思っているか分からないですけど…、うるさいなと思ってるかもしれないですけど(笑い)」