<練習試合:日本5-7カブス>◇15日(日本時間16日)◇米アリゾナ州メサ

 侍ジャパンの「恐怖の7番打者」、中田翔外野手(23)が1発締めで準決勝に臨む。練習試合カブス戦に7番一塁で先発し、代表初アーチを弾丸ライナーでたたき込んだ。挑戦していた「すり足打法」を「1本足打法」に戻し、前日14日の練習試合ジャイアンツ戦から2戦連続3安打の猛打賞。あす17日(同18日)の準決勝を前に、未完の大器が状態を急上昇させている。

 アリゾナの少年十数人が、プレーが続くグラウンドに背を向けていた。左翼席奥の柵にしがみついて離れない。名前を聞いたこともなかった日本人野手の侍初アーチ記念球を捜していた。侍ジャパン3連覇は、野手最年少の中田が導いてくれるかもしれない。ワクワク感が募るシーンだった。

 17日の準決勝に向け、最後の実戦。昨季カブスのローテ左腕として6勝を挙げたウッドを、力でねじ伏せた。3点を追う2回1死一塁、内寄り高めの直球を完璧なタイミングで強振。103・6メートル先の左翼ポール際フェンスを弾丸ライナーで越した。「本当に気持ちいいスイングができた」。ボールは左翼芝生席奥の通路付近で跳ね、フェンスから約15メートル先の柵をワンバウンドで越えて消えた。

 宮崎合宿から立浪打撃コーチと二人三脚で「すり足打法」に挑戦。体が前に突っ込む癖を直すためだった。「長打が出る気がしない」との理由もあり、2次ラウンドの12日オランダ戦から直訴する形で「1本足打法」に戻した。決して失敗したわけではなく、「いいところ取り」に成功した。

 「すり足に変えてから、前に突っ込むのがマシになった」。前日14日ジャイアンツ戦は合宿から自身初長打となる推定飛距離130メートルの三塁打を記録。カブス戦は代表13試合目での初本塁打も含め、2戦連続の3安打を放った。山本監督は「成長の跡がうかがえる。すごく粘り強くなった」と評価。持ち前の長打力に確実性が備わった印象だ。

 実はコツコツ努力できる。日本ハムの名護キャンプ中は度々、栗山監督より遅く球場に入った。常連ファンから「翔君は寝ぼすけだから、いつも最後」と笑われていたが、半身浴、ストレッチで入念な準備をしてから練習に入っていた。豪快な打撃は才能、そして努力から成り立っている。

 代表では21歳の投手今村に次ぎ2番目に若い23歳。東京からアリゾナへのチャーター便ではビジネスクラス席に限りがあり、首脳陣、選手の中で今村と2人だけエコノミークラス席に座った。「(野手)最年少なので。これでアピールできたとは思っていない」。準決勝以降も先発出場は確実だが、貪欲な姿勢は忘れない。

 フォーム修正から不振、スタメン落ちも経験し、苦悩の末に完成形を手にした。立浪打撃コーチは「ホームラン打者は1本出ると、続く。(AT&Tパークは)レフトは逆風で難しいけど、今の状態なら期待できる」と目を細めた。カブス戦後はチャーター便でサンフランシスコ入り。準決勝、決勝の舞台、AT&Tパークはこの日の球場とほぼ同じで左翼103・3メートル。中田からすれば、大した広さではない。【佐井陽介】