<WBC:日本1-3プエルトリコ>◇17日(日本時間18日)◇準決勝◇米サンフランシスコAT&Tパーク

 主将で4番・捕手、侍ジャパンの大黒柱、阿部慎之助捕手(33)が、悔しさをにじませた。1次ラウンド前に右膝を負傷しながら、先頭に立ってチームを引っ張ってきた。4回2死二塁、6回2死三塁、8回2死二塁と好機に凡退したが、阿部の存在なくして侍ジャパンの結束はなかった。「僕はもう出ないと思うが陰ながら応援したい」。今大会限りでの“代表引退”も示唆し、新たな侍の台頭を願った。

 カメラの前に立った阿部は、吐き出すように第一声を発した。「いやー、もう悔しかったです」。敗れた悔しさはもちろんだが、重責を終えた脱力感も交錯するようだった。「全員が精いっぱいやったんで、悔いはないです。必死にやった結果ですから」と言葉をつなげたが、胸に込み上げてきたのは別れの寂しさだった。

 阿部

 勝つごとに言葉では言い表せない、いい空気になってきた。そういう意味で、いいチームになった。終わってしまうのが残念です。

 仲間のお膳立てに、結果では応えられなかった。1点を追う4回2死二塁はボテボテの投ゴロ。内川が三塁打を放ち、迎えた6回2死三塁では空振り三振に倒れた。8回は重盗失敗後、1発出れば同点の2死二塁の好機だったが二ゴロ。3度、得点圏に走者を置いたが、快音を響かせることはできなかった。くしくも“阿部のチーム”を象徴するような結果だった。

 連覇は途切れたが、チームに一体感を運んできたのは阿部だった。主将、正捕手、4番。「三足のわらじ」にもチームを第一に考え、行動で示してきた。8日の2次ラウンド台湾戦で、ダイビングキャッチで背中に違和感を覚えた牧田に行きつけの病院を紹介。予約を取った上で、移動の手段がタクシーだと知ると、自身が移動に使う運転手付きのマイカーを用意した。

 ウオーミングアップでは先頭を走った。阿部の姿に、巨人のチームメートも覚悟を決めた。宮崎合宿での夕食時、内海は坂本、山口、沢村ら、集まったメンバーを前に誓いを立てた。「阿部さんがあんなに頑張ってる。巨人の主将であり、侍ジャパンの主将。阿部さんの顔に泥を塗るわけにはいかへん」。

 強烈なキャプテンシーを発揮する中、家族との時間がやすらぎだった。宮崎キャンプ初の休養日。家族5人で、チーム宿舎横の「こどもの国」に足を運んだ。夕食は家族5人でいきつけのとんかつ店へ。長女の真子ちゃん(4)から似顔絵付きの直筆の手紙を受け取った。「きょうはパパにあいます。パパはやきゅうをしています」。プレゼントされた手紙を手に「こんなのもらったら涙が出ちゃうよ」と抱きしめた。

 大黒柱として、最後の願いは新たな侍たちの台頭だった。「将来に向け、どんどん若い選手が出てきてほしいですし、そうすればレベルアップしていける」と呼び掛けた。次回のWBCは4年後、自身は37歳を迎える。「次は僕はないと思います。陰ながら、応援していきたいと思います」と穏やかな表情で話した。そして、こう締めた。「みんなで胸を張って、帰りたいです」。【久保賢吾】