成長させてくれて、ありがとう-。14日(日本時間15日)開催の新日本プロレス米ワシントンDC大会で、IWGP・USヘビー級王座の初防衛に失敗したエース、棚橋弘至(45)は、敗れたにもかかわらず、どこか晴れやかな表情を浮かべていた。

それもそのはずだ。初戴冠となった昨年8月以来、約9カ月ぶりとなった米国での「USヘビー」タイトル戦。地元の大歓声。昨年から「アメリカで巻いてこそ意味がある」と“ベルトがあるべき場所”での対戦を熱望してきた通り、気分は別格だった。「ここにベルトを巻いて戻ってこられた。俺としても歴史は残せたかな」。試合後はそう、しみじみと振り返った。

メインイベントの同級選手権試合でジュース・ロビンソン、ジョン・モクスリー、ウィル・オスプレイと4WAYマッチで対戦した。場外の長机にモクスリーをセットし、コーナーポストから場外へハイフライフローをさく裂するなど見せ場を作ったが、王者から直接勝利しなくても他3選手のいずれから白星を挙げれば新王者が決まる一戦だ。リング内で戦っていたロビンソンが、オスプレイにHHB(フィッシャーマンズドライバー)を決めて3カウントを奪取。その瞬間、3度巻いた愛着のあるベルトとともに帰国するという夢は、はかなく散った。

昨年8月、米ロサンゼルス大会でランス・アーチャーを破り、初の日本人同級王者となった。ジェイ・ホワイトに続き史上2人目となる新日本4大シングル王座全戴冠を達成。順風満帆かと思われたUSヘビー級王者だったが、その道のりは険しかった。

昨年11月にKENTAに敗れてベルトを失うと、今年1月の東京ドーム大会ではKENTA発案のノーDQ(反則裁定なし)タイトルマッチを経験。高さ5メートルの巨大ラダーからハイフライフローを決めて勝利するも、「あるのは虚無感だけ」と話した混沌(こんとん)の一戦に、わだかまりは残った。2月にはSANADAに敗れて防衛に失敗。3度目の戴冠は、王者のケガによる返上で巡ってきたチャンスだった。今月1日の福岡大会(ペイペイドーム)で、石井智宏との王座決定戦。20分超の熱戦を制し、再び米国への切符をつかんだ。

酸いも甘いも、ともにしてきたベルトだ。今回のワシントンDC大会では、自身が直接3カウントを奪われて負けたわけではない。もちろんそこには、悔しさも、もどかしさもあったはずだった。だが、棚橋は言い切った。「止まってられないから。次に進むから。USヘビーで得た経験は俺を成長させてくれたから」。そう、敗戦も前向きに捉えている。

4度目に会う時は、一回り大きくなった棚橋を約束する。「またいつか巡り合う日が来るのを俺は信じてる。最後に、USヘビー。本当にありがとう。また、いつか…」。そう、相棒に一時の別れを告げた。【勝部晃多】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)