元年俸120円Jリーガーで格闘家の安彦考真(46)が20年夏から届ける日刊スポーツウェブコラム「元年俸120円Jリーガー 安彦考真のリアルアンサー」では、2月から不定期で各界の代表者や挑戦者らと対談する新企画「時代を担う若者たちに伝えたい!挑戦し続けるためのマイルール」をスタート。初回の格闘技団体「RISE」伊藤隆代表に続き、第2回はJ3のY.S.C.C横浜の吉野次郎代表取締役が登場です。安彦もかつてプレーしたクラブで、昨年末からはキックボクシングチームの一員として所属。対談後編では安彦がインタビュアー役となり、吉野氏にさまざまな質問をぶつけました。【構成=松尾幸之介】

   ◇   ◇   ◇

安彦 吉野さんとは僕が19年に移籍して契約をしていただいてからなので、出会って約5年ですね。クラブには吉野さんとも面談して加入しました。当時の僕の印象はどうだったのでしょうか。

吉野 熱。やっぱりすごくパワーが伝わってくる。一言一言の重みに裏付けがあるというような、すごい熱を感じるなというのが第一印象でした。

安彦 うれしいですね。良い機会なので、僕を獲得した時の経緯についても聞いても良いですか。

吉野 選手を獲得する時って生か映像で見るんですけど、安彦さんは良いところの(切り取られた)映像が送られてきたんですよ。

安彦 (笑い)

吉野 良いプレーした時のね(笑い)。でも、それはまさにこっちが望んでいたプレースタイルだったんですよ。シュートを打つという。そういう選手ってすごく珍しくて。そのシーンばっかり編集された映像があって、これもしかしたらいけるじゃんってなりましたね。実際に会ってみて、契約内容はご本人の希望も

ありがたく受け止めさせていただいた部分もあったので、そして当時の監督は若くてまだ実績がなかった。自信を身につけていくためには理解のある年長者で周囲を固めるというのは組織運営の根本かなと思っていたので、こういう安彦さんのような熱量があってワンチーム精神の強いベテランの選手が入ることの効果は、我々が客観的に見て選手に声をかけることとはまた違う効果が出るのではないかなというのが獲得した理由ですね。

安彦 あの、プレー動画についてはそういうものを編集しました。しかも鮮明な動画ではなくて、(J2)水戸時代の練習試合と、あとは練習風景を定点で撮っているものを水戸の分析担当にとりあえず送ってくれと頼んで、それを自分で切りつないで送りましたね。頑張って編集して良かったなと思います(笑い)。当時の監督のシュタルフとはもともと知り合いでもありましたし、Jリーガーを目指す時に一緒に沖縄キャンプに行ったりもしていた間柄だったので。彼が目指すものの力になりたいなと思っていました。

吉野 サッカー選手として90分戦えるわけではないにしても、練習も含めた活動の中で手を抜かないことはできるわけですよ。それは若い選手にとってのかがみになりうる。どのチームにもそういう選手の存在は欲しているところはあると思います。まさにそうした部分にマッチしたところはあったかなと思います。安彦さんは真面目だし、手を抜かない。背中で見せてくれたと思います。いろいろ賛否はあるにしても目の前で見ていたら、ちゃんとやっているじゃんと。世の中、半分しか見ていない人が100の評価をすることがあるので。見てみたらいいじゃんと。我々はそういうシンプルな考え方でしたね。

安彦 吉野さんのそうした肝の据わった考え方とか「最後の決断は俺だ」というおとこ気のような部分も含めて、みんながついていく要因なのかなと思います。僕も今回あらためてお声掛けさせていただいていますし、チームの今季の戦いも楽しみですね。ちなみにそこから僕が格闘家に転向すると言った時はどう感じましたか。

吉野 正直、いいんじゃないという感じだったんですよ。自分の人生設計がしっかりできていると思っていたので、次に何にチャレンジするのか全く知らないまま告白されたというか、そういう状況だったので。でもいいんじゃないかなと思いました。これだけ真っすぐに物事に取り組める人ってなかなか珍しいなと思いますし。ただ格闘技は一歩間違うと命を落とすことにつながるので、ちゃんとした準備をして挑戦してほしいと思いましたね。

安彦 YS横浜でのボクシングチーム設立への思いについても聞かせてください。これは僕がもともと所属していたジムを抜けたあとの提案から始まった話でした。

吉野 我々の「YSCC」のCCはカルチャークラブなので。いろんなスポーツを楽しめる環境作りをという思いもあるので。サッカーだけでなく、キックボクシングチームができて、そうした一般の方向けの講座ができてもいいのかなと。子供たちにも良い刺激になるし、保護者の方もいるし、良い教室になるのかなと思いましたし、ぜひ横浜に開いていきたいなということを描いていきながら組み込ませていただきました。

安彦 Jクラブがそうした教室を行うことで、より広く地域のみなさんがキックボクシングに触れられる機会も増えると思いますし、これからどんどん広げていきたいなと思いますね。

※対談の全容は日刊スポーツYouTubeチャンネルで随時公開中



◆吉野次郎(よしの・じろう)1965年(昭40)3月31日、横浜市出身。学生時代は自身もサッカーに励み、指導者としても活動し、NPO法人Y.S.C.Cに就職。02年に理事長就任。19年にサッカークラブを運営する株式会社Y.S.C.Cの代表取締役にも就任した。23年11月にキックボクシングチームも立ち上げ、安彦考真も所属。


◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。22年2月16日にRISEでプロデビュー。プロ通算2勝1分け2敗。身長175センチ。

対談した安彦考真(左)とYSCC横浜吉野次郎理事長(撮影・滝沢徹郎)
対談した安彦考真(左)とYSCC横浜吉野次郎理事長(撮影・滝沢徹郎)
対談するYSCC横浜吉野次郎理事長(後方)と安彦考真(撮影・滝沢徹郎)
対談するYSCC横浜吉野次郎理事長(後方)と安彦考真(撮影・滝沢徹郎)
対談する安彦考真(後方)とYSCC横浜吉野次郎理事長(撮影・滝沢徹郎)
対談する安彦考真(後方)とYSCC横浜吉野次郎理事長(撮影・滝沢徹郎)