角界は「小兵の時代」なのだろうか。身長170センチ台、体重100~120キロ台の力士が幕内の土俵をにぎわせている。先場所も171センチ、117キロの新入幕・翠富士が9勝6敗で技能賞を獲得した。「小よく大を制す」は格闘技の醍醐味(だいごみ)。100キロに満たない関取最軽量の炎鵬など、巨漢を相手に果敢に挑む姿は、相撲ファンの心をつかんでいる。

春場所(14日初日、東京・両国国技館)でまた1人、将来有望な「小兵」が初土俵を踏む。近大相撲部の長内孝樹(22)が、高砂部屋に入門。前相撲から「番付」という大相撲界のピラミッドに挑む。

大学3年までは世界相撲選手権で準優勝するなど、軽量級のトップの舞台で活躍した。大相撲入りを決めた理由について「4年になって、コロナの影響で試合がなくなっていった。小さいころからやってきた相撲をこのまま終わるのかと、不完全なしこりがずっと残っていた。大相撲でとことんやっていこうと、11月に(近大の阿部)監督と相談して決めました」。新型コロナウイルスの影響で大学最終学年に試合予定が次々と中止になったことが、後押しとなった。

得意は珍しく「出し投げ」で、「中学時代から磨いてきた」という。昨年、55歳で亡くなった近大の伊東勝人前監督とは同じ青森で「中学時代から知っていて、自分にとってはもう1人の父的存在です」。得意の出し投げを「磨いていけ」と指導してくれた。「活躍して監督(伊東前監督)を喜ばせたい」と誓う。

相撲は単純に言えば体と体を真っ向からぶつける競技であって、体重制もない中で、恵まれた体の方が有利は否めない。その中で「小兵」を言われる力士は生き残り、番付のピラミッドをよじ登っていくために、より多くの苦労を重ね、個性を磨く。その結果が見ている者を引きつける。

長内は高砂部屋入門を決めた要因について、「学生相撲出身力士が多く、体の小さい自分でも強くなれると思った」。近大の先輩、大関朝乃山からもガンガン胸を借りる意気込み。「2年で関取に上がりたい」。出し投げを武器に、厳しい世界に飛び込む。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

◆長内孝樹(おさない・こうじゅ) 1999年(平11)3月1日、青森県生まれ。五所川原農林高から近大。主な実績は18年全国学生体重別115キロ未満級優勝、19年世界相撲男子計量級準優勝、20年西日本学生体重別無差別級優勝など。175センチ、120キロ。得意は右四つ、出し投げ。4兄弟の3男で全員が相撲経験者。